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ブルーアワーに歌いながら歩く少女を背中から捉えたオープニングをはじめ、主人公の心情が表出する映像にハッとする。監督の分身である主人公を演じる夏帆はこの役で自身の最高到達点を更新。一泊二日で一緒に帰省する友人を演じるシム・ウンギョンとの遠慮のない掛け合いや、久々に会った家族の異変を少しずつ見せることで、テンションが切れずに持続する。ただ、主人公の主観と客観的事実をもう少し整合させていれば、ラストで明かされる“秘密”がより効果的だったはず。
犬のリードを引くような仕草で、少女が独りで町を歩き回っている。愛犬ルーの喪失を悲しむ彼女の心情が十分に伝わる冒頭の数分に比べ、その後の展開がやや冗長で単調。しかし、ルーが好きだった電車を使ったファンタジーに類するクライマックスで合点がいった。これは大人のための映画というよりも、子供が犬との暮らしや、お別れをどう受け入れるのかを学ぶための絵本。犬好きとしては、人に媚びずにのびのびと動き回る姿を撮ったドッグ・ファーストな演出に★をプラス。
閉鎖的な地方の町を舞台にした、壮絶な魔女狩りと村八分に、人間の残酷さと弱さ、愚かさが浮き彫りになる。そんな世の中だからこそ自分の“楽園”を求めて生きろ、という作品のメッセージを背負う杉咲花の繊細さと野性味を兼ね備えた存在感は、焼け野原に一輪だけ咲くシロツメクサのよう。彼女に思いを寄せる青年のアプローチがほぼストーカーの発想であるなど、そこかしこに人間の恐ろしさが垣間見えるサスペンス。ミステリーとしては、真実の提示の仕方に困惑してしまった。
二人の男性の間で揺れ動くヒロインのユリは、空っぽで、疲れ切っていて、日常の流れに身を任せ、自分に向けられる欲望に応えていく。彼女への共感はまったくないが、白い肌をピンク色に上気させて植物のように感応する、瀬戸かほが演じるユリを見ていると、彼女に強烈に惹きつけられる男たちの気持ちがわかる。魅力的なヒロインを中心に、人と人の間を行き交う感情を丁寧に映像に映し出せば、大きな事件やすれ違いがなくても、恋愛映画は作れるということを証明する一本。
スクリプトドクター・三宅隆太氏の言う“半径5メートルの話”というのに当てはまる作品である。心に憤懣を抱えた30歳のCMディレクター女子が、自由気ままなお友達女子と一緒に、病気の祖母を見舞いに、故郷の茨城へ帰り、癖のある父や母や兄たちと再会……。何てこともない話だ。特段のドラマや出来事があるわけでもないが、ちゃんと映画にしている。“おもしろいっちゃ、おもしろいんじゃね?”と若い人は言うだろう。夏帆とシム・ウンギョンのコンビがいい。また見たい気にさせる。
その昔、賞を総なめした某映画を配給した会社の人に、「この映画を観て泣かない人は人間じゃない」と言われたことがある。僕は泣けなかったので、人間ではない。人間じゃなかったら、せめて鬼ならいいのにと思う。「鬼の目に涙」、僕はそんな涙を映画を観て流したいのだ。名子役と世界的演劇人と犬、原作は伊集院静なら、欠けるもの何もない。泣けない人は確かに人間じゃないかもしれないが、僕は泣けない。お膳立てが見え過ぎてしまうのだ。ひねくれ者に生まれてすいません。
14年前に起きた栃木小1女児殺人事件を思い出す。中国人の母を持つあの事件の被疑者は、一審、二審とも無期懲役にされているが、冤罪だとしか思えない。どうしてもそんな目でこの映画を見てしまう。犯人と見なされた青年、村八分にされた養蜂家、共に殺人を犯したようなのだが、納得のいくような動機は示されない。ステロタイプの人物が型通りの台詞を吐いたりするが、一時も気を逸らさせないのは、かなりのワザである。だが、この映画の中に人は何を見るんだろう。
冒頭からラブシーンで始まる。うまい。二人の愛がどんなものなのか、そこですべて示している。そのあと二人の生活が描かれていくが、常に冒頭の二人のセックスが思い浮かぶ。そのセックスがまさに二人を象徴しているのだ。ヒロインはその後別の男とセックスをするが、そのラブシーンは冒頭のものとはまったく違う。セックスを通じて愛の形の違いをくっきりと見せている。最近流行りの“監督・脚本……何某”というのはほとんどが凡作だが、これは違う。この人は本当に映画を熟知している。
田舎への憎悪と、それでもそれから逃れられないというぐちゃぐちゃした気持ち、そういう感情を持つ自分をダサいと認め、ダサいのは生きてる証拠、だから最高だ、という逆転は説得的。同じように田舎への愛憎せめぎ合う身として共感を覚える。ただ帰郷を通して自分を振り返るという定型への照れか、ひねた業界人という主人公の設定で、どこか嫌味で素直に感情移入させないのは映画として損。通俗どんとこいの勇気を。友人=異人を外国人女優に充てるのも理に落ちすぎ。
愛犬が亡くなったことを納得できない少女が、息子を亡くしたことを納得できない老人との出会いと交流を通して、その死を受け入れるまで。十年後の自分のナレーション、記憶、霊、幻の電車など、時空間が錯綜する構成で、確かに飽きさせないのだが、十年後の自分と物語の過去との関係がよく見えないのはどうか。作りが丁寧と言えば言えるのだが、情感を演出しようとして思い入れたっぷりの場面の連続で、見ていて飽きてくる。ヒロインがいい子過ぎるのも単調で詰まらない。
二つの違う話を合わせたような、と思ったら二短篇の組み合わせだった。しかしあまりうまく嚙み合っていない。ともに周囲の悪意によって追い詰められる男の話だが、一方は外国人・貧困差別、もう一方は村八分とその意味が違い、悪意の輪郭がぼけて強く迫ってこない。それを期待されるのかもしれないが、無理やり接合して群像劇にせず、どちらかに絞って丁寧に掘り下げた方が良かったのでは。真犯人があの人として、その後の年月をどんな思いで生きたかは暗示でも描いてほしかった。
人妻が、年上の夫のもとを離れて別な男に走る、凡庸な「愛の小さな歴史」。出来事らしい出来事がない作品だけに、繊細な心の動きや変化を演出によって捉えねばならない難しい題材で、その選択自体の勇気は認めるとしても、それができているかと言えば疑問。皺くちゃの詩集や、「木のように触られたい」という台詞など、意味ありげな細部で分かったような気にさせるのは納得いかない。登場人物が三人、話らしい話もなし、雰囲気だけでは、古本好き層でもいささか辛い。