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たった2日間の出会いなのに、一生思い返すことになるだろう恋……。少なくない数の人々に覚えのある経験や感情を、圧倒的なリアリティで主観的に切り取っている。だが最も感情が盛り上がる場面で周囲から水を差されるという状況を描くことで、この作品はシンプルな恋愛映画でいられない悲しみと緊張を常に背負い、ゲイを嘲りの対象としてきた無理解な社会を告発する意味合いをも持つことになる。表現が押しつけがましくないので、見る者次第で感想が異なるだろう、鏡のような作品だ。
ちょっといまの時代に撮られたとは思えないほどの、ひねりのないド直球の苦労人サクセスストーリーで驚いてしまった。型にはまった展開がいちいち予想できてしまうのがつらいものの、演奏時の静かな間など、場面ごとの見せ場をゆったり堂々たる演出で見せきっているのには感心しきり。 キャストも良く、とりわけクリスティン・スコット・トーマス演じるピアノ教師“女伯爵”の存在感が素晴らしい。主演の男の子ジュール・ベンシェトリは、ジャン=ルイ・トランティニャンの孫だという。
期待の監督アンソニー・マラス長篇デビュー作。実際の出来事の映画化作品ながら、「ダイ・ハード」や「タワーリング・インフェルノ」を想起させる娯楽作として成立しているところが凄まじい…!その上で被害者のあっけない殺され方に漂う無情なリアリズムや、テロリストとして送り込まれた青年たちの葛藤を描くバランスがモダンで素晴らしい。一方で、西洋側の視点をもって、西洋人が多く泊まるホテルへのインド人たちの忠誠を美徳として描くことへの“ためらいのなさ”には疑問を持った。
デジタルを駆使してクレヨンの暖かい風合いを出しながら、およそ映画の題材にはなり得ないような、平凡な夫婦の物語を丹念に描いている。当時の風景が精緻なリサーチで実体を持つ、まさに英国版「この世界の片隅に」。新居の造りのひとつひとつに感激している場面や、息子を疎開させ灯火管制のなか爆撃に震えているふたりの姿を見ているだけで心が張り裂けそうな思いに。感傷的な題材ながら、同時に極めてドライな作風から、原作者が「風が吹くとき」の作者だったことに思いあたる。
このアンドリュー・ヘイという監督、人の心の内を描くのがうまい。実力のほどは前作で証明済みだが、それら以前に撮ったこの作品に才能の片鱗を見て取れるのが嬉しい。主人公の二人はゲイなのだが、差別や偏見をテーマにしていないところが斬新。自分のセクシュアリティーと自分自身がどう折り合って生きるかの問題を、二人が交わす偽りのない濃密な会話で、週末の数日間に凝縮するのだ。アパートから帰っていく相手を見送るショットが美しい。ラストの駅のエピソードは忘れがたい。
自分の指で未来を拓くが主題のこの映画、ストーリーはありきたりの成功物語だが、俳優と、ラ・セーヌ・ミュージカルなどのロケーションを含むパリの風景、ラフマニノフ『ピアノ協奏曲2番』などの名曲とで、一応の体裁は整えている。が、目的地点、つまり成功に到達するまでは、エピソードが予定通りに積み重ねられていくので、もうひと工夫欲しい。横顔の、額から鼻筋にかけての輪郭に祖父J=L・トランティニャンの面影がにじむJ・ベンシェトリの今後に期待して★ひとつ進呈。
作品の成り立ちからして面白いとは言いにくいので、実話の強みと手に汗握るサスペンス性を併せ持つ、とする。主人公のホテル従業員と料理長の信念と行動力はもちろん立派だが、劇中に散見するテロリストたちの状況にも関心を向けているのでドラマが力強い。無言で人を射殺する一方、恐怖心が募り泣きながら父親に電話をする者や、父親に「もうお金はもらったか」と電話で確認する者までいる現実を見せつけられるとは……。首謀者の偽善に操られる彼ら。根深い哀しみを見た。
絵本『さむがりやのサンタ』『スノーマン』、もしくは映画「風が吹くとき」といったほのぼのとしたタイトルから受けるイメージとは違い、原作者の作風には、優しいストーリーの中にシリアスな事実を盛り込む特徴がある。今回も然り。息子の両親へのノスタルジックな物語と並行して、第二次世界大戦やアポロの月面着陸などの歴史的な出来事から、車や電話機といった庶民の暮らしにまつわることまでリアリティーがあり、クロニクルの意味合いも。両親の声の名優二人は息がぴったり。
ゲイバーで出会った男二人がセックスして、マリファナ吸って、お喋りして、またセックスして、コカインやって、酒飲んで、またまたセックスしてお別れする二日間の物語は、退屈といえば退屈なんだけど、空気感の抽出や画の切り取り方が至極的確ゆえに心地よく観ていられるし、行為の直接描写にさほど尺を割いていないにもかかわらずセックスシーンの生々しさは特筆もので、毛むくじゃらの腹に発射された精液を気だるく拭き取る事後の仕草などには妙にゾワゾワさせられてしまった。
人混みの早回しを長々と見せたり、警察との追っかけっこを妙にポップに演出したり、冒頭からしてなんかダセえ……と嫌な予感はしたものの、その後の展開はそれなりに丁寧で、このままラスト上手く盛り上がってくれればイイ映画になるのかなあと思ったが、その思いは見事裏切られ、無造作に次々と障害を置いていくだけのあまりに雑なクライマックスには呆れてしまった。主人公をゴリゴリのヤンキーにして全体をB級ノリに舵切りしていれば安さ爆発の終盤もむしろ美点になり得たのだが。
映画としての完成度は素晴らしく、実話である事の強味を最大限援用した脚本と強靭な演出には全く緩みがない。こんな悲惨な事件をこんなに面白くしちゃっていいの? という思いは拭いきれないが、それは映画というものが予め孕んでいる原罪なのだと思う。自分たちの行為が召命であると盲信し残虐の限りを尽くすテロリストに立ち向かおうとするロシア人の客に「神のご加護を祈ります」とコック長が声を掛けるシーン、彼が返した言葉に肌が粟立った。「祈るな。それがすべての元凶だ」。
素朴なタッチの絵で淡々と紡がれてゆく普通の夫婦の普通の人生をただ眺める事がこんなにも心地がいいとは、発見ともいえる体験だった。普通といっても何も起きないわけじゃない。小さな幸福、小さな不幸、大きな幸福、大きな不幸、色々起きる。人生だから。テレビを買った小さな幸福、髪を切りすぎた小さな不幸。子どもが出来た大きな幸福、戦争という大きな不幸。誰しもが最後に迎える死は悲しいけれど、不幸じゃない。人生は、素晴らしい。★はすべてこの幸福な夫婦に捧げたい。