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ナチスドイツの占領下となった英国の島を舞台に、読書に自由を見出した島民の姿が描かれるという物語だけで、かなり感情移入してしまう。それだけに戦争の悲劇や人権蹂躙が映し出されていく深刻な内容と、あわせて描かれるメロドラマの部分がうまく嚙み合っていないように感じられた。「二十四の瞳」で、主人公が二人の男性の間で揺れる…みたいな要素が中心にあったとしたら、やはり散漫な内容になってしまうのではないだろうか。キャスティングや美術、撮影はリッチで見やすい。
富裕層が移り住み、高級化が著しいカリフォルニア州オークランドの現在。彼らの移住は、もともとそこで暮らしていた人々の生活を様々な意味で揺るがし、分断すらしていく。そこにあるのは格差問題なのか、それとも人種問題なのか。“ブラインドスポッティング”というタイトルを名乗る本作は、まさにその手法によって、描くべき問題を同時に重ねて映し出そうとする。その試みの複雑さとユニークさが素晴らしく、本作はオークランドを代表する映画になっていくのではないだろうか。
ブリティッシュコメディらしい、皮肉なユーモアが全篇に漂う一作。作家を目指す若者と、殺し屋組合に加入している老年期の人物が、ともに困窮した生活をしているのが笑える。金がなければ死に方すらままならないという状況は、ブレグジットによって自由な気風や夢をさらに奪われてしまったイギリス社会の暗さの投影か。映像の質は一定して低くはないし、よく言えばまったりした魅力があるが、サスペンスやアクションなどの見せ場の迫力に乏しく、印象に残るシーンが少なかった。
「平方メートルの恋」や「あなたの名前を呼べたなら」など、ムンバイを舞台に格差問題を描くインド映画を近年目にするようになってきた。お受験事情をコメディ調で扱う本作は、多少図式的ながら分かりやすく貧/富それぞれの生活をシンプルに映し出し、現代インド社会が直面する課題を学ぶきっかけになり得る。二極化が進行するなか、経済格差の是正が困難になり不正が横行しているなど、日本社会も他人ごとじゃない。主人公たちの成金ファッション姿を盛り上げる劇中歌が笑えた。
英国のTVシリーズ『ダウントン・アビー』のキャストが出演しているのは嬉しい。さらにナチス占領下で住民たちが密かに行っていた読書会という、主題に惹かれる。情報から食糧まで、厳しい占領政策によって過酷な生活を強いられても、読書が人の生きる力となる。つまり自由への理不尽な抑圧に対する最強の抵抗を、人の文化を大切にする意志としているのが、本好きの身には心強い。予想通りの結末だが、そこに至るまでにつづられる歴史の出来事には人と人との支え合いがたっぷり。
B-wayミュージカル『ハミルトン』でトニー賞受賞のD・ディグス主演と知り期待が募る。そして映画には米国の現実がぎっしり。黒人居住区を警官から自衛する目的の、ブラックパンサー党結成の地オークランドが舞台という点に意味があり、街に密着して炙り出す生な現実に、脚本・主演の二人の気骨もくっきり。ドラマは切れ味鋭く軽やか。映像・音楽はクール。結末には救われるが、併せて党結成の’60 年代から何ら解決されないままに複雑化した現実も突きつける。期待以上の見応え。
そこそこ面白いんだけど、その面白エピソードは同時に間の抜けたゆるさを孕み、物足りなさも。なぜなら主人公は自殺願望に取り憑かれている設定といっても、それは生きる理由を見つけるため。片や暗殺のノルマを達成できずに引退の危機に追い込まれている殺し屋にしても、冷酷非情ではなくて、仕事を楽しんでいる。中盤に至り、出版社の女性と自殺願望男が惹かれ合う段になって解るが、これは生きることを、人生を肯定するコメディだったのだ。序盤ではエッジが効いていたのに。
前々号のこの欄ではインドに根深い身分差、男女差を主題にした2本の作品を取り上げたが、今作はインドの教育格差の問題で、ずばりお受験戦争。「あなたの名前を呼べたなら」に主演したティロタマ・ショーム演じる受験予備校の講師がのたまう「皆さん妊娠3カ月の時点で私の指導を予約します」が、血眼になる親の狂乱ぶりを物語る。受験ビジネス、教育制度、経済格差といった社会性をストーリーに盛り込みながら、終始喜劇のハイテンションをキープするカリカチュアの技の妙を堪能。
リリー・ジェームズがとにかく綺麗で可愛くて、それだけでも相当の満足度が得られる。彼女を愛でる映画であろうからか、かなり衣裳替えが多く、インナーはともかくアウターまで着回しがないのはトランク一つで田舎の島に来たという設定からしてちょっぴりおかしな気がしないではないけど。クラシック恋愛映画が苦手な僕には合わないだろうなあと思って観始めたけど、最後には普通に感動している自分に驚いた。それにしても、お金持ちのあの男は何も悪くないのにかわいそうだなあ。
人種差別への問題提起は咀嚼し切れない部分が残るけど、映画の持つドライヴ感が心地よく、アメリカのリアルを描いた社会派要素と、キレのいいコメディ要素をヒップホップな味付けで均衡を崩さず接着させる手捌きはすごく達者で、スパイク・リーのような暑苦しさがないのも好印象。主人公と友人の間で日常的に交わされるラップが見どころの一つなのだが、字幕は頑張って韻を踏んでたとはいえ、こういうのはやっぱりネイティブな英語を聞き取れないと楽しめないんだろうなあと思った。
話の骨子はカウリスマキの「コントラクト・キラー」そっくり。設定は面白いのになぜかハジけず、展開するにつれ段々つまらなくなってくるというのはこの手の殺し屋ブラックコメディが孕んでいる宿命な気もする。それでもカウリスマキのようにキャラや演出に個性があれば退屈しないのだが、本作はその辺も割とフツー。死の描写に湿度や重みが感じられないのは喜劇とはいえやはり致命的だと感じてしまうし、キービジュアルっぽいインコが物語に殆ど与していないのも何だか勿体ない。
誇張はあるのだろうけど、インドのお受験事情や格差問題を笑いと涙の一級娯楽作品に昇華させているのは見事としか言いようがない。個人的に少しモヤついた気持ちが残るラストも、教育とは何か? 幸せとは何か? という答えのない問いに対してひとまずこの映画が示さなくてはならない落とし所であり、きわどいバランスで間違っていない。全体的にはベタベタなのに、父親の演説に対して拍手が起きなかったりと、ここぞという時に抑制を効かせる押し付けがましくない演出も良かった。