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一本の木の影は、隣にいる人のもたらす影響を示唆しているのだろう。無気力な夫(アトリ)が妻にもたらす不調、失踪したアトリの兄がもたらす母(インガ)の狂気と父の無関心、生まれてこない我が子がもたらす、隣家夫婦の不安定。そばにいるだけで侵食されてしまう、時に煩わしい他者の存在といかに接するべきか? 大木を切るように、単純にはいかないのだと、グロテスクなラストシーンでインガが教えてくれるが、大人のトラブルに巻き込まれた、子供やペットはたまったものではない。
混沌とした不思議な映画。混沌をよく表しているのは音楽だ。主人公の生きた時代の推移と共に、BGMはスウィングジャズからロックンロールへ。かと思えば、敗戦ムード高まる第二次世界大戦末期に、戦地で兵士たちと「松の木のため息を聞け」と歌った、フィンランド唱歌がよみがえり、エイズが流行する80年代のアメリカで、仲間の見舞いに訪れた主人公らが病室を逃げたウサギを追いかける長閑なシーンでは、ドビュッシーの曲をピアノが奏でる。淡い夢を見ているような、孤独感が漂う。
秘密厳守で世界中のセレブに信頼される、五つ星ホテルの内部に入れた興奮からなのか、スノッブな構成が「ザ・カーライル ア ローズウッド ホテル」のひかえめさにそぐわない。脈略なく登場しては、ホテルの魅力をうきうきと語る金持ちも、バーにエレベーターホールにとはしゃぐカメラワークも、観客をおいてけぼりにするばかり。クリスマスツリーのイルミネーションの反射で際立つロビーの美しさ。それだけで掃除の行き届いた快適なホテルであるとわかるのに。何だかトゥーマッチ。
ステファン・エドリスにとってのマウリツィオ・カテランの「彼」の付加価値は、たしかに美術館ではつけられないだろう。コレクターの愉悦に納得。しかしアーティストの芸術的価値とは、100億円で落札されたジェフ・クーンズのステンレス製ウサギの彫刻と、野ウサギと暮らすアトリエで、抽象画を描き続けるラリー・プーンズ、どちらのウサギがお好み? というレベルから発展せず、経済的価値との関係性は判然としない。オークショニアやギャラリストの存在価値も、やや物足りず。
国連が2012年から発表し始めた「世界幸福度ランキング」は、北欧諸国が毎年上位を独占する。本作の製作国アイスランドの最新順位は4位。しかし社会保障や自由度、緑地面積などの数値で割り出されたこのランキングほど胡散臭いものはない。本作がサディスティックにえぐり出す不寛容社会の陰湿さをもって、ソレ見タコトカと騒ぐのも大人げない行為だが、ゴミひとつ落ちていない気味悪い画面の隅々を眺める時、私たち観客は自身の薄汚れた内面をそこに見出すことになるのだ。
性的多様性社会の創出はまだ端緒を開いたばかりだ。主人公の描いたドローイングがイメージの一元化にも寄与してしまったように思えるし、またその点が興味深くもある。先駆者の栄光と共に抱え込まざるを得ない陥穽なのだ。しかしながら、米国ゲイコミュニティの招聘を受けた主人公がフィンランドを出て、カリフォルニアに降り立った日に受け止めたあのまばゆい陽光を、人々のあのリスペクトの眼差しを、映画の中でお裾分けされるのはうれしいことだ。一元化の問題は後回しでよい。
M・ジャクソンとS・ジョブズとダイアナ王妃が同じエレベータに乗り合わせ、挨拶し合ったというエピソードを聞けば、誰だってそわそわする。ケネディ大統領が最上階を所有し、M・モンローがそこに通うための特別な秘密通路はあったはずだが、今でも詳細は分からないなどと語るホテルスタッフの証言には、心なしか在りし日の香しさが残る。伝説に彩られた名物ホテルが穏やかな微笑のもと、現在の変化と闘っていることが分かってくる。ここに闘いを看て取ることが最も重要だ。
左欄「カーライル」と同じ構造の映画だと言える。貧者のための覗き窓として、映画が機能し始めたのだ。時にそれはセレブ御用達ホテルとなり、時に現代アートの売買市場となる。時には銀座の一流寿司屋にも。F・ワイズマンが開いた限定空間への覗き窓は、仏頂面のワイズマンに任せておけない野心家たちによって多様なバリエーションが展開されつつある。バブルの軽薄さを呪うことは誰でもできるが、その仮想の間口の広さこそが本作の真の主題であることを作者は熟知しているのだ。
隣人同士がいがみ合い、仕返しがエスカレートして最後はとんでもない状況に。なんてお話はN・マクラレンの短篇「隣人」ってのが凄くて。こちらはちくちく陰険型の展開。いわば北欧の白夜の雰囲気。気になるのは片方の家族の息子。女房から見捨てられたこのオッサンが、報復戦争に巻き込まれて次第に凶暴化もせず、逆に周囲の人々の憎悪を煽ることもせず。ただただ憐れな存在のまんま。なぜこんな人物を設定したかが不可解で。この作り手、犬と猫のアイデアで安心しちゃったのかしら。
同性愛者のクロニクル。第二次大戦中の暗闇の逢引きからはじまって、エイズ発症の80年代から90年初頭までを映画は駆け抜ける。偏見があって抑圧されてのこの世界を、さらさらした筆致で描いて暗くなく、重くなく。トムのイラスト、その男たちの誇張された肉体。ここまで堂々と性欲を発露していると笑ってしまう。作品全体に彼らに対する共感と親愛の情が窺えて。ただし、もう一歩深みに欠けるという物足りなさも。映倫によるボカシは疑問。まんま放っておけば意識されないものをねえ。
すこぶる豪華な動くカタログ映画。登場する顔ぶれも有名スターやセレブばかり。従業員のコメントも笑顔にあふれ、悪いところは微塵も出さぬ。伝統と高級とシックな装いのこのホテルに、作り手が恋し憧れ、その中に潜り込んで嬉しくてたまらぬ。そんな風情。特にバーにおけるW・アレンをはじめとする数々のライヴシーンは楽しめる。超高値の宿泊費にチクリ針を刺す男優の発言にニヤリ。にしても、陰の部分が微塵も描かれぬのが。こういうのを観ると、F・ワイズマンの凄みを再認識して。
山中貞雄の無声映画の傑作が見つかった。オーディションにかけられる。超高値で落札。以降、そのコレクターの眼にしかふれられないとしたら。ここで取り上げられているのは美術品だけど、映画に替えて想像したらゾッとする。格差社会の上流の人たち、それに群がるアート・ビジネスの連中。今や芸術は私有財産か投資の対象。悪びれもせず自説を語る彼らの顔を、作り手は淡々と記録する。こんな状況に苦笑し、ため息をつきつつ作品に向かい続ける画家たち。そこにひと筋の光を当てて。