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確信犯的映像に導かれて、チョコレートを食む男の口元なぞに見入っていると、一体何を観ようとしていたのか? と危うい心持ちになるが、本作の主人公を、佐川一政氏と双子のように育った弟と捉えて、タイトルの意味を考えれば、他人=兄をネタに飯を食うということか。かような視点から、ラストの一政氏を「奇跡」とは到底思えぬわいと見据えるうち、ピンぼけのカメラが捕らえようとしていたのは、卑猥な好奇で心を満たそうとする38年目のカニバ的観客だったのでは!? と戦慄した次第。
おおらかな大人の笑顔に救われる。作品全体をほのぼのとしたテンポで包み込む牧歌的な劇伴音楽のような、主人公アルフレドの母タルマ。演じたのは、演技経験ゼロの監督の実母だとか! スカイブルーのブラウスもSMの女王様ルックもよく似合う、堂々とした存在感で、お調子者の息子を見守る、貫祿のおかんを好演する。出色は、マリフアナを合法化したムヒカ前大統領本人の出演だろう。作品を観て「ユーモアは大切。でも時には真面目に働きなさい」なんて、センスのよすぎるコメントには脱帽。
北京のホテルで、朝鮮半島のニュースを他人事のように倦怠した表情で眺めていた黒金星のもとに、電話がかかる。相手が北朝鮮の外貨獲得責任者、リ所長とわかるや否や、黒金星の表情は笑顔に変わり、声のトーンも一気に上がる。凄腕スパイの人間味が感じられてホッとしたシーンだ。上司に「踊ってこい」と言われたら、上手に踊れる(笑顔ではなく真顔で!)部下の優秀さにわらう一方、国内ネタにこだわらず、孟子や森信三らの名言を使った、エスプリの効いた友情エピソードも鮮やか。
妹の初潮の面倒まで見られるゼイン少年は立派な「大人」だ。待てよ、敬愛する大人・田辺聖子先生は「大人の資格」を「お茶目で自分を嗤えること」と語っていたかも。そういう意味では、彼はまだ「大人」ではない。遊園地の観覧車に乗って、夕日を見た彼の大人びた横顔の、もう片方の表情に思いを馳せる。「何か食べものをくれない?」と、ラヒルには言えた少年の素直さを大切にしなくては、この世界から希望は消えてしまう。ゼインの訴えに「大人」の裁判長が下す判決が知りたかった。
本作の被写体が映画の被写体に値するのかは措いておくとする。人物を真面目に捉えようという意志ゼロのカメラは、思わせぶりにピンぼけ画面へと、肌の凹凸も露わな超クロースアップへとスタイル化させ、この輪郭を欠いた画面の背後には何事かがあるんだぞと凄んで見せる。監督2人組はハーヴァード大学感覚民族誌学研究所のメンバーで、世界に冠たる最高学府のエリートだ。そのエリートが雁首揃えて何をやっているのか。前作「リヴァイアサン」で生じた疑念が今回、確信へと達した。(星ゼロ)
『どっきりカメラ』を初めて見る視聴者のように動揺すること必至の風刺喜劇で、怪しげな甘味料でコーティングされた猛毒だ。ウルグアイ映画人の辛辣な自己風刺力に舌を巻く。人材/予算不足ゆえ、国家事業をなぜか市井の母子がゲリラ的に進めてなんの疑問も持たない。擬似ドキュメンタリーの白々しさが、コロラド、NY、ワシントンと北米各地を渡り歩くうちにマリフアナの作用もあってか、なおかつ南米仕込みのサッカーテクニックが互恵意識を醸成し、祝祭的人間喜劇へと昇華してゆく。
この手のポリティカルサスペンスを作らせたら、もはや韓国映画人は世界一の手練れ集団だろう。ベルリンの壁はもうないが、38度軍事境界線は健在だ。その不幸と引き換えに彼らは「大人向けの007」を何度でも作るが、それは割に合わぬ苦すぎる代償行為だ。韓国スパイの主人公が任務中に胸襟を開くこととなった北朝鮮高官と、破顔と共に酌み交わすたった一杯の焼酒の、なんという一生涯分の酒悦だろうか。のちに北京の店で一人啜る平壌冷麺の味は? 苦き世にも一片の歓はある。
一時も気の抜けない苦難がこれでもかと主人公少年を襲い続け、見る側は思わず苦笑してしまうほどだ。この極端さに動揺する間にも状況は悪化の一途を辿るが、最後で非常にメロドラマ的な偶然事が起こり、事態は一変する。人道支援プログラム的な切迫感と共に持続していたはずのリアルな一本道が、ここでググッと映画学校のシナリオ教室の光景へ、あるいは溜めて我慢していっきに吐き出す任俠映画の説話システムへと行き着いてしまうのだ。リアリズムの難しさを再考させる一作。
佐川氏は孤独だ。なぜそうなったかは自覚している。闇の中で暮らしている。弟が寄り添っている。自分しか兄の面倒を見る人間がいないから。切ない。だけどこの弟にも満たされぬ想いがあって、特殊な性癖が。苦しい。佐川氏は最後に(監督から)女性をあてがわれる。まるでご褒美のように。久しぶりに他者から人間扱いされて佐川氏は生気を蘇らせる。終始、ごろんと放置したようなキャメラ・アイ。あの奇矯な「リヴァイアサン」の監督か。なるほど。無機質な観察者の眼だ。肌に合わない。
マリフアナを合法化した国家の混乱を諷刺したフェイク・ドキュメント。ウルグアイ映画というのが珍しい。薬局の経営者とその母がハッパを求めて米国を珍道中。元麻薬捜査官まで道連れにしてのクスグリの趣向は、かの国の人と感覚が違うのかさほど笑えない。なんだか(公認、密売含めた)米国の大麻販売のリポートを観ている気分。いっそのことウルグアイが大麻を大量栽培・加工して、世界を相手に商売するって設定にしたら、と。もっと話をでっかくして。実物の大統領が演技も含めてご愛敬。
民主化運動や南北問題を題材にすると韓国映画は息づくようで。時代背景は90年代。金大中が大統領選に立候補。それを阻止しようと南北国家機関が暗躍。そこが興味津々の面白さ。企業家と偽って秘密を探る韓国スパイの行動もハラハラドキドキ。遂に金正日と対面。いつ態度を変えるやも知れぬ首領様の顔色を窺いながら交渉にあたる場面はスリル満点だ。北の高官を人間的に描き、主人公と同類相憐れむ的精神で結ばせるのも心地いい。実録ネタだけど娯楽精神に溢れて。その分やや甘口。
12才の少年が家出する。その原因は父母への怒りだ。生きる場所はスラム。ぎりぎりのその日暮らし。こちらの胸もきりきり痛む。やがて少年は赤ん坊の面倒を見るように。それも肌の色が違う移民の子を。食べると食べさせる、両方をやらなければ。親を捨てた少年が、今度は子供の保護者となった。そこには弱き者への(無意識の)慈愛が窺えて。この映画、ここが一番の生命線だと思った。貧困と混沌で汚濁した水溜りを掬ったら、ひとしずく、清らかなものが掌に残った。そんな感覚が。