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通訳を介しながら進行する会話劇は、まるで日々われわれが(同じ言語を使用する者同士であっても)感じている意思疎通の齟齬や、本質的に相容れないと感じてしまう相手との溝を、拡大して見せてくれるかのようである。そしてまた、通訳が入って言葉が行き交いはじめたばかりに、壊れてしまう関係もある。それゆえにクライマックスはなおさら感動的だ。コミュニケーションのもどかしさを丁寧に可視化する演出が素晴らしく、とりわけチェン・ペイペイの表情と動きの繊細さに惹かれる。
どうも演出に冴えがないというか、原作の(および脚本の)絵解きに終始しているような印象。そのうえ、「えっ、いったいここからどうなるの!?」と、ようやくドキドキしはじめた途端、こちらの心臓に負担をかけまいとするかのごとく、大急ぎでサスペンス状態を解消してしまうのだった。とはいえラストシーンにはちょっとほろり。全体にキャスティングに助けられている感じで、とりわけ「断崖」のケーリー・グラントみたいな難役を演じる、コリン・ファースの演技が絶妙なさじ加減。
音楽映画としては、楽曲がドラマを置き去りにして飛翔する瞬間がもっと欲しいと個人的には思うが、時系列を手堅く交錯させて折り重ね、JBの人物像をガツンと塊にして見せてくれる。少年時代に祭りで見世物にされるシーン、ボストンでのコンサートのシーンなどなかなか見ごたえあり。JBの恩人と言っていい立場なのに、彼の才能に打たれて以後、つねに微笑みをたたえながら寡黙にJBを支えつづけるボビー・バードが愛おしい。C・ボーズマンは伝記映画専門の俳優になるのかしら。
アクションシーンの撮り方がまったくなってないのが最大の弱点で、このせいでクライマックス(身代金受け渡しから以後)がひどく冗長に感じられる。しかしそこまでは、面白い原作を面白い脚本にして撮った面白い映画の見本。猟奇殺人者でもある誘拐犯と電話交渉するくだりの緊迫感はもちろんのこと、リーアム・ニーソンが歩き回って捜査する前半部分が、最近珍しい「探偵物」の気分をよく出していてとてもいい。NYの街も、出会う人々も、一瞬しか出てこない人まで全員魅力たっぷり。
言語、文化、習慣、世代、嫌悪、嫉妬という溝や裂け目。それがどんなに深く大きくとも埋めることができるはずという前向きなテーマ、通訳を頼んでまでそれを叶えようとするベン・ウィショーの姿がなんとも染みる。だが、それよりもこみ上げてくるのが、故人をめぐる現在、過去、記憶を円滑なようで混濁気味に映し出すタッチ。これらがふとしたことで目眩のように訪れる、追憶という喪失感を見事に具現している。チェン・ペイペイは、ときおり河原崎長一郎に見えてしかたない。
ニコマンが目覚めるたびに、優しい夫、瀟洒な自宅、献身的な医師、そして自分自身に対する印象がおぞましい方向へと変わっていく。その果てに暴かれる真相はたしかにゾッとするが、起きたらすぐさま疑心暗鬼なシチェーションのほうがゾゾッとする。犯人がヒントを残しすぎる気がしないでもないし、なにかとツメが甘いのだが、タイトな語り口、誰もいないホテルの長い廊下やデジカメの粗い粒子のなかで慄くニコマンといった不穏誘発ビジュアルに持っていかれるので問題なし。
壮絶な出自を筆頭に、あの曲、あの事件、あのステージと、外せないアレコレをしっかりと拾ったJB史の基本を学べる内容。どうしたって「ブルース・ブラザース」が頭によぎる、ダン・エイクロイドとJBの〝変則的再共演〟も◎。しかし、ただファンキーでカオスなノリを狙ったような、画面から彼が語りかける手法は活きているとはいえず。C・ボーズマンの声と話し方はJBに激似だが、さすがに線が細すぎる。だが、あのJBの容姿を再現できる者が、この世にいるだろうか?
意外とすんなり事件の背景や犯人の身元がわかってしまうが、そこはちっとも重要ではない。なんたって、ミステリーである以前にハードボイルドなのだから。消えることのない悔恨を抱える主人公から放たれる悲愴と虚無、ひたすら足で情報を稼ぐ〝これぞ探偵〟な彼の姿、まだ危険な匂いがプンプンしていた99年のブルックリンという舞台設定に酔った。少女を殺めたことで宿罪する男が、少女を救うことで贖罪する物語の構図もたまらない。「ラン・オールナイト」に続き、ニーソン絶好調。
ゲイのカップルの一方が死に、残された男が相手の母親に会いに行く。息子がゲイであることを母親は知らない。グザヴィエ・ドランの「トム・アット・ザ・ファーム」と期せずして同じ設定だ。全く色合は違うが、テーマに向き合う繊細な感覚は共通している。新人ホン・カウ監督は、老女と二人の青年の微妙な葛藤を、精緻な心理小説のように描いて行く。死んだ青年が生きているように何度も画面に現れるのは回想と言うよりは意識の流れだろう、新鮮。役者はみな適役、好演。
夫が殺人者ではないかという疑惑を持つ妻の恐怖、妻には記憶障害がある。ヒッチコックの「疑惑の影」と「メメント」を合わせたようなお話。原作は英米で大ベストセラーだそうだが、ミステリとしては、もう少し犯人の動機を丁寧に描くことが必要だろう。事件の展開をもっぱらヒロインの潜在意識下のフラッシュバックに頼っているのも弱い。ニコール・キッドマンは流石に説得力のある演技をしているが、コリン・ファースははたしてこの脚本に満足していたのだろうか?
強烈な個性、カリスマ性、鼻持ちならない独善性、常識では計りきれないジェームス・ブラウンの人間像が彼のファンクな音楽とともに見事に再現されている。あたかもJBが憑依したようなチャドウィック・ボーズマンの演技が見もの。時系列に添わず、心情に添って現在と過去を絶え間なく往き来するシナリオが、単純なサクセス・ストーリーにしないで過酷な過去を語るのに効果的だ。全てををまとめ上げた監督テイト・テイラーの功績だろう。大画面、大音量で観たい映画だ。
「ラン・オールナイト」に続いてまたまたリーアム・ニーソンのアクション映画だ。今やジェイソン・ステイサムと共に中年ハードボイルド映画の星だ。原作は日本でも人気のロ-レンス・ブロックの無免許探偵マット・スカダー・シリーズ。同じ役をジェフ・ブリッジスが演じた「800万の死にざま」が決定版だと思っていたが、ニーソンのスカダーも悪くない。この位の歳のほうが良いのかもしれない。スピーディでパンチの効いた演出で上々のエンターテインメントになっている。