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染谷将太が、いままでにないような貌を見せるので、さすが石井岳龍と期待したのだが……見終わって、何かひとつ足りないような感じが残った。同じことが反復される、というのはいい。それは、音楽のありようとも重なるからだ。ひとつのテーマを繰り返し繰り返し演奏しながら、次の瞬間、テーマを突き抜けた音が生み出されるというように。だが、ここでは、惜しいところで、そこまで行かなかったように思う。物語に囚われたか、いや、物語のつきつめ方が足りなかったのではないか?
これだけのキャストを揃え、歌舞伎町大通りのセットを組んで、役者たちを走り回らせれば、誰が撮っても、そこそこの映画は出来るのではないか。と思うのは、園子温監督らしい匂いが稀薄だからだ。綾野剛も山田孝之も、もっとじっくり見たい沢尻エリカも、かなり頑張っているが、ごく普通の娯楽映画に収まっている。ま、それは続篇狙いの作りも含め、端から意図したことかもしれないが、それにしても、女を幸せにすると言いながら、誰も幸せになっていなさそうに見えるのは、どうして?
農林水産省の官僚が、淡路島の農漁業の現地調査をやると乗り込んできたら、現地の生産者たちは、どう反応するか? 霞ヶ関の役人が、こちらの事情も知らずに、調査と称して覗き回るだけ迷惑! と反撥するのは見やすい図だ。この映画も、まさに、その通り始まり、以後、調査官の予想外の熱心さに、島の人の気持も次第に和らぎ、彼女の漁業や農業に対する真摯な思いに応えていくと……この手の物語に典型的なパターンで展開していくのだが、それでも最後まで見せるのは、編集の術か。
まずハンバーガーをぱくつく永作博美がカワイイが、映画としてそれなりに楽しめるのは、死んだはずの「ヨメ」が現れて、亭主とやりとりしながら二人して、結婚から「ヨメ」の発病、出産、闘病そして死に到る日々を見直すという構成にして、実際との距離をとった点にある。これが、現実の出来事に沿って描かれていたら、よくある難病ものと一緒で、よほどの力業がなければ、とても見ていられなかったろう。佐々木蔵之介と永作のコンビも、夫婦の組み合わせとしてはぴったり決まっていた。
何とも知れず良い! カッコイイ! 必見。音楽、音響も必聴。逆説的に、なんだよ石井岳龍ex聰亙かよ、他にこういう疾走感のある、生きてるつくり手はいないのか、邦画のパンキッシュ方面の二十一世紀ってゼロか、と絶望しそうに。ギザギザして、とても程よく収まろうというものではないのに、実に分厚く安定し、腰を据えて暴れている。大黒恵比寿猪神ほか阿弥陀仏や千手観音を思わせる人物の名前も神話にまで達した垂線を感じさせる。脚本、ラストも良い。想念こそが必殺の武器。
走り方がいいから綾野剛の走る姿が見られると嬉しい。しかし主役ではなかったのに、石井岳龍「ソレダケ」に出てた綾野剛のほうが強烈だった。一見誰だかわかんないところまで行っていたから。本作は了解範囲内の良さ。日本においてヤンキーものから歌舞伎町界隈カルチャーもの等にまたがるサブやくざ的ワールドは漫画と映画でその物語の土壌たるメジャーな文化圏を形成しているが「新宿スワン」はそのなかの代表的な金脈という感じ。でもマタ山本と園子温がこれをやるとは意外。
こんなお役人ばっかりならいいのにねえ。本作冒頭の栗山千明演じる農林水産省調査官は実に憎たらしいような無神経さ傲慢さなのだが淡路島の農業、そこに生きる人々を知るようになって様々に尽力する、と。しかし現実はきっと生涯通して冒頭の栗山のような姿勢の役人ばかりではないだろうか。廃業を決意し故郷の淡路島を去ろうとした玉ねぎ農家の青年(桐谷健太)があるものを見て……という件、そして人形浄瑠璃に打ち込むと地味な姿を脱ぎ捨てるように光る谷村美月はよかった。
原作から脚本、そして映画にする際にファンタジー的仕掛けをほどこして、お涙頂戴な要素を批評的に突き放している。だって実話が原作で、ガンとの闘病があり、しかし亡くなり、ということを描くのに、そこに亡くなった人物が幽霊としてずっと出てきてお話や語り口に茶々を入れるんだから。でも結果として観客は余計胸に迫るものを見せられた。良い話、良い扱いかた。個人的な感想として、私もライターで子どもはまもなく一歳、幸い嫁が元気でいる。原作者の日々の苦労に頭が下がる。
地を這い、天を舞い、縦横無尽に「今」を滑走するカメラ、轟音で鳴り響くブッチャーズ、主人公・大黒を演じる染谷将太の虚を睨む目……。サンダーロードの狂い咲きに脳がグラグラ撹拌された日が蘇る。生きながら死んでいるのか、死にながら生きているのか!? その間を駆け抜け、叫び、銃を構えて発砲しまくる若い2人に終始ひりひり。どこか「気狂いピエロ」のフェルディナンをも彷彿とさせる、恐ろしくて滑稽な打ち上げ花火にも似た悪あがき。これはやはり爆音で観たい!
油断ならない。清と濁、嘘と真、白と黒、お天道様と裏街道。真逆に位置するものがちらちらと裏に表に反転し続ける、たゆみなきメビウスの輪のような映画だ。はきだめの街・歌舞伎町を舞台に、その巨大な淀みに浮かぶ泡沫たちの、かつ消え、かつ結びてゆく様を描いた現代絵巻。本来の自分の色を敢えて原色で塗りつぶして純愛を描く園子温、眩いばかりに絢爛な俳優陣……これは狙いすましたケレンなのか、それとも!? なんてムダに構えて臨みつつも、「今」ならではの気迫と色気に圧倒された。
今は亡き塩屋俊監督が「みのりの茶」に続き構想していた淡路島が舞台の第2弾。真摯で清廉な語り口は篠原監督にも受け継がれ、淡路島について学習できる社会科的意義のある作品に。ただ、頭でっかちで合理主義、神頼みを全面否定する鼻持ちならないエリート官僚の主人公が、瞬く間に島の農水産業再興に情熱を注ぎ、兄弟の確執に胸痛め、〝かいぼり〟実現に向けて奮闘する、その彼女自身の変節の動機が希薄で、心寄り添えぬまま想定内の着地点へ。主人公含め人物造形にもう一捻りあれば。
事実を追えばひたすらつらい物語だが、「婚前特急」の前田弘二監督は、重すぎぬよう湿りすぎぬよう細かな仕掛けをあちこちに。主演2人が20歳を演じる冒頭の出オチ、死んだはずのヨメがツッコミ担当として現れる「居酒屋ゆうれい」的設定、「余命1ヶ月の花嫁」「シックス・センス」他、さらにそれを映画で茶化す台詞etc……。終局、死を目前にしたヨメがハンバーガーを食む力強い咀嚼。何があっても人は食べる。生きる。明日は来る。だからこそ、しばし止まりたい「今」を慈しむ目が胸に残る。