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あれをそのままハリウッド映画にするのは無理だろうと思っていたら、やっぱり随分わかりやすい(ありきたりな?)話に作り変えられていた。とはいえ押井守監督映画版のイメージやモチーフを踏襲した箇所も多く、「アヴァロン・アパート」や犬のガブリエルの登場にはニヤニヤ。でも、押井版であれほど素晴らしかった、香港市街を駆けめぐるアクションシーンが、こちらだとスカスカでしょぼく見えてしまうのはなぜだろう。ビートたけしに、北野映画を思わせる見せ場があるのがうれしい。
メキシコ国境近くを舞台にした不法移民をめぐる話だから、政治的メッセージが強烈に出ている映画と思われるかもだが、物語を骨組みだけにしてしまえば、実はキャンプ中の若者たちが殺人鬼に襲われるホラー映画と同じ仕組みである(次に犠牲になるのが誰かをだいたい予想できる点も同じ)。とはいえ、西部劇を思わせる風景のなかで話が展開されること自体に、高い批評性を見出さずにはいられない。そしてまさにこのアメリカ的ランドスケープこそが、めざましく劇的な演出効果を上げる。
文字どおり踊るような動きで相手を倒していく殺し屋サム・ロックウェルがオモシロかっこいいのはもちろん、全員キャラが立っていて魅力的(RZAが演じる人物は、たぶんそうなるだろうと予想がつくのだけどやっぱり愉快)だが、何にもまして俄然映画を牽引するのは、「ザ・コンサルタント」での「イケてなさ」ゆえの魅力に、暴走キャラの魅力がプラスされたアナ・ケンドリックの犯罪的可愛さ。ひとりで観てもグループで観ても楽しい映画だけど、たぶんデート・ムービーに選ぶと最強。
会話の途中で訪れる「気まずい沈黙」の間を、丁寧に拾っているのがやがて独特の風合いをもたらす。アメリカ映画の伝統を受け継ぎながらも、現代のフランスで撮られている家族劇映画のような感触もあり。主人公が負った傷はひどく痛ましく、重い内容に取り組んだ映画だが、広い意味でのコメディでもある。キャメラの距離の取り方が好ましい。主人公が部屋に飾った3枚の写真に誰が写っているのか、もちろんわれわれには想像がつくのだが、それを決して画面に示そうとしない慎ましさ。
まず「攻殻機動隊」への敬意に驚いた。フリッツ・ラングの「メトロポリス」の未来都市と比較し、映像技術の進化を確認。脳と身体の関係がテーマだから仕方がないが、ナイスボディのスカーレット・ジョハンソンの身体がロボットというのは、わが秋本鉄次を慨嘆させるのではと気になった。しかし、彼女の精神的な母親がジュリエット・ビノシュ、記憶回復で分かる現実の母親が桃井かおりというのは泣かせる配役で、ビートたけしの使い方も巧い。音楽も含め、引用と仕掛けが楽しい作品。
冒頭、十六人のメキシコ人たちがアメリカへの越境を試みる車で聖書の出エジプト記のことを口にするが、モーセに匹敵する指導者はいない。だからジェフリー・ディーン・モーガン演じる帰還米兵らしい男が銃を手に猟犬を連れて、「ここは俺の国だ!」と喚きながら、発砲してくると、次々に血しぶきをあげて倒れていく。その殺戮描写は、実に残酷で、これがメキシコ人スタッフのイメージするトランプ支持派のアメリカ人像かとおもうと、もはや娯楽映画の範囲を超えて、うすら寒い気分に。
『スリラー』のジョン・ランディスの息子マックスの制作と脚本だけあって、語り口が軽快。主演のアナ・ケンドリックとサム・ロックウェルはともにはみ出し者ながら、リズミックに動き、とぼけた明るさがある。ティム・ロスをはじめとする脇役陣のセレクションもよくて、むかしのプログラム・ピクチャーの魅力を醸し出す。「ダンスをするように殺す」というスピードを売りにしたガンプレイは程々にして、「普通の人間なんて、この世にいない」と言う男女のラブコメディをもっと見たかった。
故郷に居づらくなった男が主人公で、たとえばカーソン・マッカラーズの小説に出てくるような等身大、かつ説得力のある人間関係が展開。アカデミー脚本賞ながら、ここにはかつてのハリウッド映画にあったアメリカン・ドリームのかけらもない。主演男優賞のケイシー・アフレックの役をマット・デイモンが演じる予定だったそうだが、製作で正解。不機嫌そうなケイシーと甥のルーカス・ヘッジズの微妙なやりとりがいい味を出しているからだ。インサートされる海辺の町の風景が目にしみた。
押井版に取り憑かれている自分も悪いのだが、肉感的すぎるスカジョの肢体から溢れる〝生と性〟が、ヒロインが醸さねばならぬ義体感をことごとく打ち消している。また、彼女を草薙素子として配役したことの釈明みたいな物語にも萎えてくる。こうなってくると、バトーの顔は犬のパグ、悪趣味なホログラム広告が乱立する未来都市は新宿にあるロボットレストランのショーにしか見えなくなってきて萎えが止まらず。作品の世界観を無視し、〝ひとりアウトレイジ〟しているビートたけしは◎。
トランプによって壁と密入国者が取り沙汰される現在ならではといえる設定と物語ではある。ただ、主人公が国境越えに命を張る理由は提示されるのだが、密入国者狩りに執心する襲撃者の背景を浮き上がらせない。かといって、それによって正体も動機も不明な不気味さが出ているわけでもなし。ドキュメント「カルテル・ランド」に出てくる米側自警団の個人版みたいなキャラだとは想像がつくが、コイツの密入国者に対する怨嗟などのあれこれも明確にしたほうがスリルに拍車が掛かったはず。
ハミ出し系女子役が似合うアナケン嬢。敏腕暗殺者に見初められるヒロインにはピッタリだと思うし、それこそ劇中でもノリノリな感じで申し分ないのだが、ユニコーンをプリントしたTシャツ、猫耳カチューシャといった、常人との〝ズレ〟を反映させたファッションがことごとく似合っていない。これに引きずられて、なんだかすべてがモヤッと感じたまま終劇。同じM・ランディス脚本の「エージェント・ウルトラ」に出てくるCIA洗脳計画が絡んでおり、同作の関連作と捉えても良さそう。
偏屈で人間嫌いの男が故郷の町に戻って、おかしくも切ないさざ波を立てていく。そんな物語かと思い込んだところで明かされる、あまりに壮絶な過去。まさしく彼のフラッシュバックのごとく映し出される〝さまざまな時間と出来事〟が、悲しみを乗り越えてよさそうなものなのに簡単にはいかぬ彼の姿にリアルな説得力を与えると同時に、そうした経験をしたことのない者にも猛烈なシンパシーを抱かせる。死んだように生きている者の所作を見事に体現したケイシーは、オスカー獲得も納得。