医者と言えば、裕福で特権階級という刷り込みが自分の中にもある。当作品は、大森一樹監督自身の医大生としての経験を基にして書いた、というだけあって、実際の医大生たちの多様な性格・思想・家庭環境などが描かれていて、す~っと腹落ちしてくる。演出も、派手な仕掛け(音響・スローモーションや早回し等)をせず陶酔状態に陥ることが無い分、何か自分の頭と心で感じさせる配慮がうかがえた。
私の中で妙に印象に残ったのが、内藤剛志が演じる南田。安保闘争時代の学生運動の影響が抜けきれない学生役。バブルを謳歌しようという時代に、いまだ居たんだなぁ、ああいう奴も、そう言えば、自分の大学生時代と丁度年代が重なるなぁ、あの古っぽい画質や光、殴る時のワザとらしい効果音など、現代の鮮麗された映画とは全く異なる世界に、妙に誘われていった。今の若い世代は、この作品をどう見るのだろうか?ぜひ、感想を聞きたい。
成長や人生のステージの変わり目で、よく「xxブルー」(例えば、マレッジ・ブルー)という言葉を使うが、当作品は、医者ブルー、いや、医大卒業ブルー、と言うべきか。この時期を経て、みな、医者という職業人間になっていくんだなぁ、と腹落ち。精神面で悩む人や悩む前にそもそも明確な進路を抱けていない人、他の職業になりたかったもの(野球選手とか)、既に子沢山の人、医大受験の為に真面目に勉強してきたけど、、、等々、こうやってレビューを書き出すと、色んな登場人物の顔が浮かんでくる。そんな中、古尾谷雅人は主役を張っていた。医大卒業ブルーを体現していたし、医者の良し・悪しを目の当たりにして精神面も崩壊しつつあった。特殊な演出と言えば、彼の夢の描写がそうだったかもしれない。彼の中には、恋人を自分の医大以外で中絶させた事がずっと心にひっかっていた。南田との関係もそうだ、最初は学生運動に影響を受けていたが、決別した。皆からは慕われていたが、彼のバランス感覚、言いかえれば中庸さ、またまた言い換えれば、誰でも無い、という感じがモラトリアム時期の象徴のなのかも。でも、そういう時期って、あると思う、特に現代の様な社会には、スローなモラトリアムが、むしろ肯定されるべきと感じたりもした。
作品全体として鮮烈さは感じられなかったが、その分、地に足ついた正直さ、とでも言うものが私にはグッと心の中に残った。
備忘メモ:
ラストの方で、古尾谷雅人が精神病院に入り、そこで同じ寮仲間だった小倉一郎が主治医だったのが良かった(彼がプライドを捨てて、仲間の治療を受け入れたんだなぁ、と思った)。そして、キャッチボール中に、医大生と先生たちにボールを投げつける悪戯シーンには驚いた。