『サタンタンゴ』
Sátántangó
(悪魔のタンゴ)
1994
(Amazonプライム・ビデオ)
原作者のクラスナホルカイ・ラースロー氏が2025年ノーベル文学賞を受賞したので観てみました。なんと上映時間7時間18分。だけど画面に力があって飽きることはなかった。映画は11章に章立てされている。
第一章 ヤツらがやって来るという知らせ
農場の収入を持ち逃げしようとする男たち。立ち聞きした男。彼等はお互いを牽制し合う。
第二章 我々は復活する
働かないで悪事を続ける保護観察中の若者二人が警察で定期面談を受ける。
イミリアーシュ(若者の一人)「連中は台所で同じ汚い椅子に座ってるさ。何が起こったか理解できないんだ。食べたりゲップしてるんだ。そして待ってる。騙されたと思ってるからだ。主人を失った奴隷どもだ」
第三章 何かを知ること
閉じこもる医師。酒を買いに出て行き倒れて病院に運ばれる。
第四章 蜘蛛の仕事 その一
「なに?この匂いさっきまではなかった。地面だわ」
第五章 ほころびる
虐待され金を騙し取られた少女は猫を虐待して、、
第六章 蜘蛛の仕事 そのニ
(悪魔のオッパイ 悪魔のタンゴ)
同じセリフを繰り返す男、タンゴを踊り狂う村人たち
第七章 イミリアーシュが演説をする
「皆さんはどういう最悪の犠牲者ですか?剥離した外壁やはげ落ちた屋根、痛んだ壁のことでしょうか。もし最悪がここにあるとしたらなぜ抵抗しないのですか?明日のキジよりも今日の雀を選んだのです。だが、この愚かで臆病で無責任な考え方には重い結果が待っています。それが無力感です。罪深い無力感です。弱さです。罪深い弱さです。臆病さです。罪深い臆病さです。なぜならいいですか。他人にも自分にも取り返しのつかないことを犯すからです」
第八章 正面からの眺望
農民たちはイミリアーシュに金を渡す。彼のいう通り我が家を捨てて徒歩で荒れ果てた大邸宅に移る。
第九章 裏からの眺望
約束の朝6時に遅れて邸宅に到着したイミリアーシュは農民たちに以外な提案をする。
第十章 悩みと仕事ばかり
ネタバレなので秘密。
第十一条 輪は閉じる
ワンカットの平均的長さが145.7秒。ファーストカットは10分!その10分は外から捉えた牛舎。牛舎から出てきた牛が散歩したり交尾したりが延々と続く。どういう意味があるのか考えてしまうが途中から特に意味はなく全てを逃さず捉えるというのが意図の様だと分かって来る。
映画が公開されたのは1994年だけど原作が発表されたのは1985年。映画の中で描かれているのは1980年代前半のベルリンの壁崩壊直前のハンガリーということになる。
80年代前半、ハンガリーは社会主義労働者党の独裁制だったがソ連のペレストロイカが始まり市場経済化、政治の自由化が進み始めていた。
原作が書かれたのはまだ一党独裁だけど集団農場は事実上崩壊していた時代。経済は自由化しつつあり国は頼りにならない。頼りになるのは金だという考えが進んだ頃だ。
しかしハンガリーとオーストリアの間の国境が開かれるのは1989年。映画の中の世界は一党独裁制が続いている。
映画は6時間までは貧しい地方の農村の事実上の崩壊、性的退廃、児童虐待などが描かれていくが残り1時間で意外な展開を見せる。
あー東欧の相互監視社会はこんな風に出来上がったのねという事がよく分かった。