寅さん役の渥美清亡き後の追悼作品としての50作記念作。
寅さんの甥の満男が彼の子ども時代から高校生の初恋までの思いでの中で叔父である寅さんとの関りを過去の作品を抜粋して構成している。
したがって本作の主人公は満男であって、寅さんは葛飾柴又が生んだ下町の懐かしい密接な人間関係の残る世界から出て娘と2人暮らしのマンションで暮らし、脱サラして小説家として売れ始めたという設定である。
本作の成立した鍵は満男の初恋の恋人役の後藤久美子の存在だった。
お化粧気のない可愛らしい美少女然とした後藤が、今や国際的な仕事に生きがいを見出し活躍する中年の女性に変貌していることが驚きと共に女性の社会進出の時代性を感じさせる。
それでも両親の不和で不安な青春時代を過ごした彼女の背景が見えて本作の奥行を感じた。
彼女の母親役の夏木マリが好演。
それに比べると満男が濃密な下町の人間関係で育ったことは大きなバックボーンとなっていることがわかる。
特に満男と彼女を巡る人間関係の中で寅さんの存在が大きなメンターとなっていた。
1人息子の満男にとって人生を自由に生きた寅さんの存在はどれだけ精神的に解放の窓になったか計り知れない。
また満男の母であり寅さんの妹であるさくらがおばあちゃんとなって世代をつないでいる光景は嬉しい。
おばあちゃん役の倍賞千恵子の老いた姿もプラン75で見せた孤独な老婆と異なる理想形を見せてくれた。
更に寅さんとシリーズで最も縁の深かった浅岡ルリ子演じるリリーが寅さんと結婚話のエピソードを過去の作品と絡めて話すシーンも印象深い。
冒頭で桑田佳祐が主題歌を歌うシーンとかお笑いタレントの無意味なゲスト出演とかもあるが、無意味なようでいて意味深い佐藤蛾次郎のチョイ出演とか嬉しい。
昔は松竹映画のマンネリと冷ややかに見ていた時期もあったが、自分も高齢になってきて昭和を振り返るいい記録になったのかもしれないと思った。