この作品、「お互いに何にも噛み合っていないな」と思って見ていたら噛み合わないはずでなんと「噛み合わなさ」そのものがテーマだった。
異国(東京)で出会った男(ビル・マーレー)と女(スカーレット・ヨハンソン)。男は、最盛期を過ぎた中年の俳優でウイスキーのCM撮影のため東京に来ている。女は、大学を卒業してすぐに写真家の夫と結婚し撮影に付いてきた若妻。時間を持て余している。そしてこの二人はこの地で誰とも相互理解ができない。同じ英語圏の人間とも分かり合えないし、そもそも夫や妻とも分かり合えていない。だから二人とも鬱屈とした滞在となっている。そんな二人が接近し、淡い恋心を抱き合うくらいにまでなる。
ソフィア・コッポラについてあまりにも不勉強で、手始めは本作だなと思いつつ今まで見る機会が何度もありながら未見だった。
東京の描き方、切り取り方には時代もある、撮り手の世代もある、製作事情もあるから何とも言えないのだが、今更ながら『パーフェクトデイズ』は日本映画だなとしみじみ思った。ヴェンダースの日本理解だけでなく高崎プロデューサーがしっかりと脚本を含めてこの手の作品にある違和感を埋めている。本作を見てついそんなことを考えてしまった。
スカーレット・ヨハンソンが東海道新幹線に乗って京都を彷徨うシーンにほっとさせられた。南禅寺で婚礼の一行に鉢合わせる。新郎が新婦のてをとって山門をくぐる。手と手がクローズアップされる。それをじっと観察しているヨハンソンの姿が印象的だった。テーマに照らして意図的に挿入されているシーンであろう。こんな何気ないシーンからも「まるで阿吽の呼吸のように相手と分かり合うこと」に飢え、自然と結ばれる手と手に見とれているヨハンソンの姿からテーマを屹立させる。そんなソフィアは繊細な感性を持ち合わせた監督なのではないかと感じた。