何度見ているか分からないが、とにかく大好きな映画である。
全編を「遊び」の精神が貫いている。神代辰巳としては珍しい日活での一般映画。お正月映画ということもあり(前年に日活は一般映画「赤ちょうちん」で大ヒットを放ち、金銭的にも少し余裕が持てた)、気球は出るわ、地方ロケはあるわで、お祭り気分が横溢している。(だが、残念ながら映画は大コケであった)
大正時代、テロリスト集団が資金集めに華族令嬢を誘拐するが、身代金を取り損ねて、テロリスト二人と令嬢は北への逃避行。右翼と左翼から狙われる羽目に。
「蝶々とんぼが鳥ならば」「浅い川なら膝までまくる」「民権論者の涙の雨か」「俺は河原の枯れすすき」「待てど暮らせど来ぬ人を」と映画の中では常に鼻歌が流れ、基調に流れる細野晴臣の音楽がまた素晴らしい。
神代得意の男女三人旅。神代にとっては、女を残すことが女を思いやるということだった。(藤田敏八の「赤い鳥逃げた?」では男女三人はそろって死んでしまう)
神代作品らしい長回しも多く見られ、中でも鉄道を使った長回し(①冒頭、交番を襲った高岡健二と夏八木勲が警官から逃れて、電車に飛び乗り、そこで会話あった後、電車から飛び降りるまでの長回し、②終盤、高岡、夏八木、高橋洋子の三人が走っている汽車に乗り込む長回し)にはワクワクさせられる。
最後の無人の駅の別れのシーンは、本当は列車が来てそこで別れるという段取りだったそうだ(シナリオではそうなっている)が、台風で電車が停まってしまったので、神代がでんぐり返ししようと言って、あのでんぐり返しのシーンが生まれたという。信じられないエピソードである。