武田鉄矢氏主演のシリーズ、第二弾「刑事物語2 りんごの詩」であります。監督はキネマ旬報社に在籍してゐた頃の杉村六郎。前作では助監督でした。この後、シリーズ3・5作目も担当します。脚本は渡辺寿、武田鉄矢、黒井和男の三名となつてゐます。音楽は海援隊の中牟田俊男。
前作の最後で、りんごの名産地・青森県弘前市に飛ばされた片山元刑事(武田鉄矢)。就任早々ドヂを踏んで、メインの捜査から外されます。そこで二年前に札幌で起きた、現金輸送車襲撃事件の協力をすることになります。三人の警備員が殺され、一億五千万円が強奪された事件であります。
現場に残されたゴム長の底に付着してゐた、りんごの種から手掛かりが掴めないかといふのです。片山は青森りんご試験場技官の忍(園みどり)に種の栽培を依頼します。それを切掛けに、急接近する二人。
ところがこのりんごの種栽培の件が新聞記事となり皆の知る所になりますと、危機感を抱いた犯人たちがりんご試験場を荒らし、居合せた忍は犠牲になつてしまつたのです......
今回のヒロインは二人。新人園みどりは、現在の未來貴子さん。りんご試験場の技官を初々しく演じてゐますが、片山に心を寄せる過程の描写がイマイチ伝はらない(これは演出の責任と存じますが)のが残念。片山の前で突然全裸になるシーンには仰天致しました。前作の新人・有賀久代のイムパクトが強すぎた為、割を喰つてゐます。
今一人は東宝の青春路線を支へた酒井和歌子さん。片山がひよんな事から知り合つた少年の母親役で、喫茶店を経営してゐます。夫は自殺し、母一人子一人。これまた片山とはお互ひ憎からず思ひ合ふ関係になりますが、暗い過去があり、何と例の強盗殺人事件の犯人たちと関係があつたのです。レイプされる回想シーンは、アイドル時代の彼女からは考へられぬ役柄でした。
事件の解明を握るアイテムにりんごの種を導入したのは中中抒情性があつて良いのですが、結局は捜査には役に立たず、別の面から意外な真相が暴かれるのであります。酒井和歌子が実は共犯で、最後は武田鉄矢に手錠を掛けられる件りも、何かとつて付けたやうな感じで、唐突感が拭へません。そして少年に「もつと強くなれ!」と何度もどつくのはやりすぎだと感じました。あまり気分の良いものではございません。
それよりも折角蟷螂拳を披露してゐるのだから、もつとコメディアクションの面を前に出せば好いのにと思ひました。ハンガーの扱ひも手慣れたもので、効果音、奇声と相俟つて中中の見ものです。それだけにアクション、ヒューマン、ラブストーリー、ミステリ、コメディと少しずつ欲張つて詰め込み、結局そのいづれもが中途半端になつた印象なのは頗る残念と申せませう。
尚、今回のサプライズ枠には、「駅 STATION]から出張してきた倍賞千恵子。前作の健さんと対でせうか。居酒屋の女将として登場し、武田鉄矢が気に入つたので同僚の三浦洋一(ビニ本好き)を連れて再び店に行くと、既に彼女はゐなくて、タモリ(タモリ一義といふ中途半端な名義)が主の縄文居酒屋になつてゐました。
おつとそれから、タクシー運転手にヴェテラン河津清三郎。武田鉄矢に愉しさうに人生訓を披露する役で登場。かういふ、無駄な大物の起用は嫌ひではありません......