つかこうへいの小説を彼自身による脚本で、深作欣二が映画化している。配給とタイトルは松竹だが、舞台は東映京都撮影所と映画会社の垣根を超えていることがうれしい。
とにかく主演の松坂慶子がきれいだ。1970年代後半からこのころにかけての彼女が最も美しく、セクシーだったのではないだろうか。大女優にかかわらず、脱ぎっぷりも良く、「配達されない三通の手紙」では見事なプロモーションを見せてくれた。本作でもまた。寅さんシリーズでぼくが一番好きなマドンナは「浪花の恋の寅次郎」で芸者を演じた彼女だ。ちなみに本作と同年、これも深作監督が撮った「道頓堀川」はその年の日本映画マイベストだ。やはり彼女の好演によるところが大きい。
本作での彼女の役どころはかつては主演作もあったが、今や落ち目女優の小夏。花形スターの銀四郎(風間杜夫)と同棲中で、彼の子をみごもっているが、出世のじゃまと捨てられる。しかも銀四郎の取り巻きの一人で、大部屋俳優のヤス(平田満)にあてがわれる。お腹の子はヤスの子として育てることが条件で、銀四郎には絶対服従のヤスは断り切れずに受けてしまう。
ヤスは小夏を養うために、危険を承知でスタントに挑む。撮影現場では千葉真一、真田広之、志穂美悦子の撃たれ役、斬られ役だが、真田と志穂美の殺陣が見事で見ごたえ十分だ。
ヤスのやさしさに小夏の心もなびいて行き、銀四郎への未練を断ち切り、ヤスとの結婚を決意する。この時、シーンが急にミュージカル調になり、結婚式のシーンに移るのはファンタジーでもある。
大型時代劇「新選組」の最大の見せ場は池田屋の階段落ちで、土方歳三役の銀四郎もはりきっていたが、あまりにも高い階段は危険という理由で中止になり、銀四郎も落ち込む。何とか銀四郎に元気になってもらいたいヤスは死を覚悟して階段落ちに挑む。
ラストシーンには一瞬とまどうが、すべては映画の世界、映画愛に包まれている。