僕はこの映画が大好きで、見る度に愛おしく感じてしまう。
森田芳光の劇場映画デビュー作。借金をして作ったそうだが、そういった悲愴感は微塵もなく、至る所を洒落のめした軽快な作品に仕上がっている。それにしても、無名の新人だった森田の作品に出演して、この映画の興行価値を上げた秋吉久美子は素晴らしい。彼女の貢献がなかったら、その後の森田映画は陽の目を見ていなかったかもしれない。そうすると日本映画の歴史も変わっていただろう。
冒頭の公園のベンチで語り合う恋人たちの台詞からして微妙なずれがあるが、そこに志ん魚(伊藤克信)が割り込んできて、彼女にいきなり「こんな男をやめて、僕と付き合いませんか」というナンセンスさ。直ぐに恋人の結婚式で司会をする志ん魚とつながる怒涛の展開でメインタイトルが出るという見事なテンポ。
駆け出しの二つ目の落語家と彼の仲間たち、また彼と付き合うトルコ嬢、女子高落研の女の子との恋愛模様が描かれるが、何だか出てくる人皆が愛おしくなるような映画なんだ。所々で挿入されるギャグも秀逸で、森田の笑いのセンスが既に処女作で存分に発揮されている。
何と言っても素晴らしいのは、彼女の家で落語が下手だと言われて、失意のまま夜の東京の町を明け方までかけて横断する道中つけのシーンだ。今ではなくなってしまった風景もはさみながら、志ん魚は目の前に風景を口にしながらテクテク歩いていく。そして、その先で待っている女子高生の麻生えりかが言う「下手くそ」。いやー、実にいい。
そして、最初の方で流れる「彼女はムービング・オン」、ラストに流れる「シー・ユー・アゲイン雰囲気」(ともに尾藤イサオが歌う)が素晴らしい(両方とも、尾藤イサオゴールデン☆ベストに収録されています)。中でも、志ん米の真打昇進祝いのパーティーで、大勢がバカ騒ぎしていたのが、少しずつ人が減っていき、最後には誰もいなくなるというラストで流れる「シー・ユー・アゲイン雰囲気」は切ない。台詞はないが、仲間たちの笑い顔がそれぞれ映し出されるのも胸に沁みる。マイベストラストシーンである。