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鑑賞日 2025/03/14  登録日 2025/04/01  評点 65点 

鑑賞方法 VOD/Amazonプライム・ビデオ 
3D/字幕 -/-
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ニヒリストの川島雄三

川島雄三監督は「日本軽佻派」を意識していたそうで、喜劇が多かったりするのもそのせいだろう。本作もコメディである。
フランキー堺は姑・沢村貞子と妻・横山道代からろくでなしと言われてしまうさえない夫。いつも責められるにたまらなくなって家出。ところがフランキーのアメリカで亡くなった叔父さんの遺産9000万円が入るのだが、期日まで手続きをしないとそれが出来なくなる。慌てた横山と沢村はフランキーの行方を捜すのだが。

川島雄三監督は本作については「これはもう、負け犬でございます。それにつきる作品かもしれません」とコメントしている。
監督自身が失敗作と認めているが、まあそんな作品というところか。
軽佻派という川島監督らしく、この映画のフランキー堺は落ち着きがない感じで、借金の取り立てにきたゴジラの八(八波むと志)、ラドンの松(南利明)、アンギラスの熊(由利徹)の三人組と埋立地でのドタバタの追いかけがサイレント喜劇みたいな味があってここが一番面白かった。
この三人組が懐かしの脱線トリオ、その役名もまあ東宝らしいけれど、ゴジラ、ラドンときたらモスラだろ、と言いたいところだけどこの作品「モスラ」の前年なのでアンギラスになっちゃうのだった。
このドタバタ要素が全編にあると良かったが、まあフランキー堺は若いから良いけど、ドタバタをやるには高齢かなというキャスティングなのでこれはちょっと無理だったかな。
このスラップスティックなシチュエーションがあれば、今観ても面白いだろう。川島監督のテンポが良いし、明るい雰囲気で描いているからダレないけど、ここで出てくるギャグは風化して笑うところまでいかない。もっとも失敗作だと監督自身が承知しているから、当時としてもあまりよくなかったのだろう。

またラストの夢落ちも映画の結末としてはやっちゃいけないというか、これをやると今までのことを作者自身が否定するようなものというか。絵空事でもこんなことをやっては、今まで楽しんで観た客に冷や水を浴びせるというか。

でも考えてみるとこの物語の否定というのが川島雄三監督の狙いだったんじゃないかなあ。主人公に大金が転がり込む。こんなことは現実にはありえない。だからこそ私たちは物語に夢を見る。主人公の成功、生きる意味や目的達成を物語に自分の希望を託す。けれどそんなことは意味がないという虚無感じゃないかなあ。夢から覚めたら現実に戻る。現実は何にもないんだ、大半の人間にはというニヒリズムじゃないかと思えてきた。
「グラマ島の誘惑」も無人島から引き揚げた者たちが戦後の平和な社会に戻るところで、なにか心に穴が開いたような空虚な雰囲気があったし、「幕末太陽伝」でどんちゃん騒ぎの後の寂しさ、死をも感じさせるラストなど、川島監督作品のニヒリズムを感じさせるものがあるから、これを描きたかったのかもしれない。これは戦争が大きく影響しているのだろうな。戦後「日本軽佻派」を掲げたのもこれなんだろうと思う。それよりもニヒリストと自称したほうがもっと良かったのかも。