一九八〇年。過激派の人質となった米国大使を自衛隊特殊工作隊が救った。味沢岳史はその中でも抜きん出た優秀な隊員だった。味沢が東北山中の単独踏破訓練中、飢えと疲労の極限で、越智美佐子に出会った。彼女は獣のような味沢の惨状を見て、救助を求めて集落へおりて行った。その時、大量虐殺事件が発生した。五戸十二名が惨殺され、その中には彼女の死体もあった。駈けつけた北野刑事は、ハイキング中に凶行の巻添えにあったと断定した。集落唯一の生存者は、十三歳になる長井頼子という少女だけだったが、彼女は恐怖のあまり記憶喪失になっており、「青い服を着た男の人……」と呟くだけだった。月日が流れた。味沢は、事件後、除隊して羽代市で保険外交員をしていた。そして、記憶を失った少女、長井頼子を養女にして暮らしていた。羽代新報の記者、越智朋子は交通事故の現場にいた。沼底から引き上げた車の中に同僚の立山の死体があった。警察はホステスの明美と同乗していた立川の酒酔運転による事故として処理した。明美の死体は見つからなかった。朋子は事故とは思わなかった。この羽代市は大場総業会長大場一成に支配されており、立川はその不正を暴露するメモを持っていたからである。明美には六千万円の保険がかけられており、味沢はその夫、井崎と一週間前に保険の契約を済したばかりだった。井崎は大場の忠臣と言われる中戸組の幹部であった。事故現場で越智朋子を見た味沢はショックを受けた。彼女は美佐子に瓜二つの妹だった。保険金の支払いの責任を負わされた味沢は事件の調査を始めた。数日後、味沢は暴走族に襲われていた朋子を救い、二人の仲は接近する。暴走族のボスは大場の長男、成明である。警察に保存されていた事故車から提防のコンクリート片を見つけた味沢は、中戸組の提防工事現場で明美の死体を見つける。しかし明美の死体発見も、大場の圧力で井崎の単独犯行となった。一方、北野刑事は、大量殺人の犯人は軟腐病に犯され狂った頼子の父の犯行との結論に納得せず、必要に味沢を追った。その頃、不思議な予知能力を発揮し始めた頼子を専門医に診せたところ、その底に潜むものが、自分への憎しみであることを知らされた味沢は、来るべき時が来たのを感じ、頼子を事件のあった村に連れて行った。頼子は少しずつ記憶を取り戻したが、自分の家の前に来ると激しく拒絶反応を示した。その夜、味沢は朋子にすべてを語った。都落にたどりついた時、美佐子の死体を見て逆上した味沢は、自分の娘を殺そうとしている長井孫市を反射的に殺してしまったのだ。ある晩、「姉ちゃんが殺される」と頼子が予知して叫んだ。そして朋子の部屋に駈けつけると、そこには彼女の暴行された末に殺された無惨な姿があった。そして町を出ようとした味沢と頼子に大場の部下が襲いかかった。超人的な力で相手を倒す味沢を見て頼子は「お父さんを殺したのはこの人!」と叫んだ。その時、味沢の手首に手錠が食い込んだ。北野刑事だ。北野は二人を護送すべく、車で出発すると、味沢を監視していた特殊自衛隊員・渡会が立ちはだかった。三人を自衛隊の演習にまぎれて消そうとする計画だった。凄絶な死闘が繰り返され、頼子は味沢の胸の中で「……お父さん」といって息たえた。北野刑事は狂ったようにトラックを戦車に走らせ、自爆した。味沢は頼子を背負って、戦車の群に向かって進むのだった……。