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  • 陽気なスタッフと最高のキャストが集結した「探偵はBARにいる」シリーズの魅力 文:遠藤薫

  • 「探偵はBARにいる2」
  • 日本映画のススメVol09 探偵はBARにいる2ススキノ大交差点 公開記念特集

  • Movie Information

大泉洋・松田龍平が演じる、“探偵”ד高田”のタッグふたたび! 札幌・ススキノを舞台に“探偵”の活躍を描く映画「探偵はBARにいる」がカムバック!

今回の「日本映画のススメ」では、「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」の作品評と、いつの時代も映画ファンをワクワクさせてくれる“探偵映画”の中から独自にセレクトした15本をご紹介します。

デキる大人が、“本気で”遊んでいる映画

「探偵はBARにいる2」場面写

人が映画に求めることは、十人十色だと思う。とにかくスカッとしたい人、何も考えずにひたすら笑いたい人、最初から最後までハラハラドキドキしたい人、わざわざ感動の涙を流したい人、中には人生を変えるほどの大きな出会いや衝撃を期待している人もいるかもしれない。そこで「探偵はBARにいる」(11)である。人生を変える……かは分からないが、このシリーズ(まだ2作目だが、あえて)は徹底して完璧なまでの娯楽映画だ。そこには今述べた要素が見事に詰まっている。特に続編にして最新作「探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点」はその傾向が顕著だ。笑いあり、涙ありとはよく言うが、本作は今どきあまり見なくなったような役者達のガチンコアクションもあり、しかもこれまた最近見ないような陽性のエロスまである。こんなに盛りだくさんでお腹いっぱい! のはずが、まだまだイケると思わせてしまう。むしろもっと見たい! と。

「探偵はBARにいる2」場面写

その魅力の原因を考えるに、ひとつは主役から脇に至るまでキャラクター達の面白さ。そしてもうひとつは、役者とスタッフが一緒になって悔しいくらいこの映画を楽しんでいることがスクリーンからビシビシ伝わってくるからではないだろうか。前作「探偵はBARにいる」は多くの映画賞にも輝いたが、橋本一監督は「そんな賞をいただけるような映画じゃないんですよ」と明るく笑う。もちろんそれは作品を卑下しているわけでは断じてない。賞レースから外れたところにこそある、娯楽映画のプライドとでも言うべきか。橋本監督が度々口にする「ごっこ遊び」(今回で言うと、喧嘩ごっこ、カーチェイスごっこ、電車で乱闘ごっこなどなど……)の醍醐味が気持ちいいほどに充満し、見ているこっちにまでその興奮が伝染する。かと思えばススキノという実在する街の中で、キャラクター達は確かに息づき、時に胸をつかまれるような深い人間ドラマが展開されてゆくのだから油断ならない。「フィクションとリアリティのバランスがいい作品」とは高田役の松田龍平の言葉だが、確かにと膝を打ちたくもなる。嬉々として壮大なる「ごっこ遊び」に興じる大人達は、当然ながら一流の映画人達。デキる大人が、正真正銘“本気で”遊んでいるのだ。面白くないわけがない。

陽気で優秀なスタッフが集結した本作は、最高のキャストにも恵まれるという幸福を手にしている。主人公=探偵に扮する大泉洋、そしてその名(迷?)相棒=高田に松田龍平。これまで数あるコンビもの、相棒ものは存在するがこの2人が登場した時の“ワクワク感”はちょっと群を抜いている。決して息は合ってない……むしろ2人の“かみ合わなさ”がこのコンビの売りでもある。ただこの2人が揃うと、何かが始まる!という言い知れぬ期待感が膨らむのだ。2人がススキノの酔客の中を特に会話もなく歩いているだけで、これほど胸が躍るのはなぜだろう。同時に、「なんでここまで仲がいいか分からない」と関係者も口を揃える(!?)凸凹コンビの、ダラダラした日常ももっと見たいと思ってしまう。度々垣間見られる事件とは無関係の2人の些細なやり取り。年齢もおそらくは出自も全く異なる2人の大きな男達が、なんだかんだ言っても常にツルんでいるおかしみったらない。ここはワクワクじゃなく、ニヤニヤが妥当だが。

探偵と高田の関係に酷似する、大泉洋&松田龍平の良きコンビぶり

「探偵はBARにいる2」場面写

本作ではこの2人の関係性が、前作以上に強調して描かれているように思う。といっても、押しつけがましい絆や友情めいた表現は皆無だ。物語は相変わらず大勢のキャラクターが登場し、にぎやかにそして物騒に展開する。なじみのショーパブのオカマ=マサコちゃん(ゴリ)が何者かに惨殺され、独自のルートで犯人を追う探偵と高田。そこにマサコが生前熱烈なファンだったという、美人ヴァイオリニストの弓子(尾野真千子)が新ヒロインとして加わり、3人は室蘭へ珍道中を繰り広げたりもする。もちろん話はそんなに単純ではなく、かつてマサコの恋人だったと噂される道内のカリスマ政治家=橡脇(渡部篤郎)が、事件に大きく絡んでくる。その他にも探偵に恨みを持つヤクザ者、謎のマスク集団と相変わらずヤバイ輩から大人気の探偵は、今回も高田と共に危険と隣り合わせの大立ち回りを演じることになるのだが……。前作で高嶋政伸が演じたカトウのような圧倒的な悪役がいないぶん、本作は話自体に現代的な“毒”と不気味なリアリティが施されている。

「探偵はBARにいる2」場面写

そんな前回と全く違う顔を提示してみせた「2」で、探偵と高田は……笑えるほど相変わらずだ。探偵は変わらずハイテンションでぶっ飛ばすし、高田は変わらずローテンションながらそんな探偵を“遅れて”助けにやって来る。この絶妙な温度差こそが2人の魅力なのだが、実際の大泉と松田もいい意味で全く違う温度で生きている2人だという気がする。にも関わらずこの2人は微笑ましいほどに仲が良い。気遣いの人=大泉と、いつでもマイペースを崩さない松田。松田のことを「初めて会ったタイプの人」と公言し、事あるごとに「面白い。素晴らしい」と絶賛する大泉。はたから見ていても、松田のことが心底面白いのと同時に可愛くて仕方がないのだろうなという思いが伝わってくる。そんな大泉のことを松田は『アクターズ・ファイル 松田龍平』(キネマ旬報社刊)の中で「一見、惜し気もなく自分をさらけ出しているように見えるけど、ちゃんとかっこつけるところはつける人。そういうところがいいんです」と語っている。奇しくも同書の中で大泉が松田について語った「(松田は)若いのに物事の本質が見えている」という言葉を彷彿とさせるものがある。

ある日の撮影現場で、高田号(高田の愛車)内で足を投げ出しリアルに爆睡する松田の寝姿を、満面の笑みで自分の携帯電話で激写していた大泉の姿を目撃したことがある。また別日には、減量中の大泉にわざと目につくよう少量の菓子を置き「罠を仕掛けた」とほくそ笑む松田の姿も(笑)。決してプライベートでベタベタした交流を持っているのではないであろう2人だが、お互いを認め合い……まあ、ストレートに言うと「好き」なのだろうと思う。それは探偵と高田の関係に酷似しているし、「探偵」シリーズの1ファンとしては嬉しい事実でもある。このコンビがこれから年を重ね、どのように変貌していくかをしかと見守りたい。震災を経て「娯楽」の大切さを痛感した私達に、一点の曇りもない100%の「娯楽」を与えてくれる稀有なシリーズの誕生だ。