血を分けた兄弟の話です。兄は香川照之さん、弟はオダギリジョーさんが演じてます。
この男兄弟の関係て非常に複雑なもので、親子のような無償の愛嬢を注ぐ関係ではないと思います。そこを西川美和監督が見事に演出してます。とても女性監督が制作した映画には見えなかったです。
男兄弟は仲が悪いが、女姉妹が仲が良いという話を友人、知人との会話で耳にすることがあります。もちろんその反対のケースもあるでしょうが、それは少数派であるのが私の実感です。その意味で女性監督が制作するのは難しいテーマだなと思いました。
私達日本人の現代社会では、古から伝わってきた一昔前の家督制度というのは法律的には消滅してます。しかしながら、内面的には家督制度は色濃く残ってます。両親や親戚からの束縛は、先に生まれた兄の方が受けているケースが多い気がするのです。
その観点を持って鑑賞すると、本作に共感するところが多々ありました。
本作のように親が他界すると、最初に連絡するのは兄弟姉妹です。同じ血を分けた関係だから、こればかりは切るわけにはいかない。
それでも別々に家庭を持ったり、違う職業や環境に身を置いたりするわけだから考え方の違いは当然生じます。
本作のように、兄が父の商売を継ぎ、弟がフリーのカメラマンとして活躍している設定だと、前述の家督制度がどうしても私の脳裏をよぎります。確かに故郷である実家は心地良い。しかし、その実家が残っているのは淡々した日常を過ごしながらも誰かが踏ん張っているからです。
物事は全てそうだと断言できます。会社、自治体、学校などというカテゴリーの中ではその責を背負う者がいます。そのカテゴリーの中では全員対等というのは、まず無理な話であるはず。いがみ合ったりするのは逆に人間的だと思えとなりません。人が潜在的に持つ深層心理を本作は描写してます。表裏と言いますか、光と闇のバランスが非常によくて驚嘆しました。
兄弟の性格も真逆であります。饒舌と寡黙、女性の扱いの上手と下手、律儀さのあるとなし、大胆と臆病など、わかりやすいように香川照之さんの演出は素晴らしかったと思います。
誠実で大人しい性格の兄だったが、弟にジェラシーを見せた演技は強く共感しました。
ラストも良かったです。それでも兄弟なんだというメッセージを感じたからです。
「血は水よりも漉し」とは、よく言ったものです。
追伸
2000年前後は邦画の低迷期だったと個人的に思ってます。本作を境にして邦画のクォリティーが上がったような気がします。