みんなに夢を与えるディズニーワールドのすぐ近くに、貧しい人たちが生活するモーテルがあるという皮肉。
ディズニーワールドを訪れたカップルが、何かの手違いでこのモーテル「マジックキャッスル」を訪れるのだが、彼女の方は絶対に泊まりたくないと駄々をこねる。
その様子をモーテルで暮らす子供たちが愉快げに眺めている。
貧困地帯の方が子供が多く生まれるというが、このモーテルは子供だらけのようだ。
本当は宿泊施設に住み込んではいけないのに、多くの世帯がこの場所で暮らしている。
とにかく子供たちの肝の座り方が凄まじい。
特にムーニーとスクーティは言葉遣いが荒々しく、大人に臆することなく悪戯をし続ける。
見かねた支配人のボビーが注意をするのだが、ムーニーの母親ヘイリーはまったく悪びれることはない。
ムーニーの素行の悪さは母親譲りのようだ。
生活のためになりふり構わない二人の姿は逞しくすらある。
人として、母親としてダメダメなヘイリーだが、ムーニーにとっては掛け替えのない存在なのだ。
映画はこのモーテルで生活する人々の様子を淡々と描き続ける。
ヘイリーはムーニーを引き連れて、道行く人々に香水を売りつけようとするのだが、明らかに法律違反なやり方だ。
彼女の行為を責めるのは簡単だろう。
しかし、子供を連れたまま、しかもモーテル暮らしという特殊な環境で、彼女が出来るまっとうな仕事はあるのだろうか。
自業自得だと切り捨てる人もいるのだろうが、運がいいだけで誰にでも彼女のような境遇に陥る可能性はある。
自分の生き方がまっとうではないことは、ヘイリーにも十分分かっているはずだ。
色々と口うるさいところはあるが、モーテルで暮らす人々の事情を十分踏まえて、なるべく彼らの身に寄り添おうとするボビーの存在に救われる部分があった。
明らかに変質者と思われる男が子供たちに接触しようとするが、ボビーはすかさず間に入って男を追い払う。
その姿はとても頼もしく感じた。
が、変質者に見えただけで、その男にも色々と事情があるのかもしれない。
どう見ても社会に馴染めるような男ではなかった。
子供たちの逞しさによってあまり暗さを感じさせない作りにはなっているものの、心が重くなる内容だった。
正直、彼女の身勝手さには共感出来ない。
が、彼女が背負ってきた闇の深さを思うと心が苦しくなる。
社会への反発心だけで生きているような彼女には、人の善意や好意を受け入れる心のゆとりがない。
スクーティの母親アシュリーは、いつも彼女が働くカフェで余ったワッフルを二人に分けていた。
しかし、ムーニーが起こしたある事件をきっかけにアシュリーは二人に接触するのを止める。
すると、今まで受けてきた好意などなかったかのように、ヘイリーはアシュリーを責め立てる。
挙げ句に、彼女の部屋に乗り込んで暴力を振るってしまう。
他にもヘイリーは何度もボビーに救けられてきたはずなのに、彼女はそれを当然だと思い、感謝すらしない。
そして自分に不都合なことが起これば、平気で罵りの言葉を発する。
やがてヘイリーが部屋で売春をしていたことが発覚する。
もはやボビーにもどうすることも出来ず、児童家庭局の職員が訪れ、ムーニーを連れ出そうとするのを黙って見ているしかない。
しかしムーニーは職員の手を振り払い、逃げ出してしまう。
最後までヘイリーは汚い罵りの言葉を吐き続ける。
ムーニーと新しく出来た友人のジャンシーが、手を取りながらディズニーワールドへ入っていくラストは、とても哀しく切ない。
自分がやがて逮捕されるであろうことを悟ったヘイリーが、ムーニーにビュッフェでたっぷり贅沢させるシーンも切ない(これもただ飯なのだが)
どれだけ醜くても、彼女は母親の心は失ってはいなかった。
内容とは不釣り合いなカラフルな画が印象的な作品でもあった。
モーテルを訪れたカップルのシーンで、自分は女の人が泣き出す瞬間が分かると言っていたムーニー。
彼女は笑ったり、怒ったりはするが、ずっと涙は見せなかった。
しかし、最後の最後にジャンシーの前で大粒の涙を流す。
強がっていてもまだまだ少女。
辛くないわけがない。
子供に罪はないことを改めて考えさせられた。