実写とアニメーションの融合が有名なミュージカル作品だが、冒頭の上空からのロンドンの眺めが一番美しかった。
雲の上に座るメリーポピンズのアニメーションから実写へのアップ、ロンドンの町を歩く人々のアニメーションからバートが踊る実写のシーンへの切り替えは見事だった。
「お砂糖ひとさじで」「チムチムチェリー」など名曲だらけで、観ていて本当に楽しくなる作品だ。
子供向けの作風かと思えば、色々と風刺も効いていて、本当の幸せとは何かを考えさせられる内容でもある。
バンクス家の父親は厳格な銀行員、母親は女性参政権を勝ち取るための活動家で、二人の子供ジェーンとマイケルの世話は乳母に任せっきりだ。
二人とも絶妙に可愛くないのが、かえって親しみを感じる。子供達の願いを叶えるために空からフワフワと降りてきたのは、風変わりなメリーポピンズ。
戸惑うバンクス氏に考える隙を与えずに、乳母として颯爽と子供達の部屋へ向かう姿はとても気持ちいい。
彼女は子供達に見方を変えれば、どんなことでも楽しくできると、歌と魔法で彼らの心をつかんでいく。
子供達に人生の豊かさを教えるのはメリーポピンズと、ある時は大道芸人のようで、ある時は歩道に絵を描くアーティスト、ある時は煙突掃除人のバートだ。
その日暮らしの気楽な人生だが、何者にも縛られない自由な生き方が、お金だとか地位では人の幸せは測れないということを教えてくれる。
絵の中に入って、メリーゴーランドで競馬をしたり、ペンギンと踊るシーンはいつまでも観ていたいと思えるほど素晴らしい。改めてディズニーアニメのクオリティの高さを感じさせられる。
煙突掃除人達のダンスもとてもダイナミックで見応えがある。銀行員に比べれば、社会的な地位は高くない彼らだが、例えばバンクス氏のように自分の感情を殺してまで銀行のために尽くす人間よりはずっと心は豊かで生命力に溢れている。
銀行の重役の間抜けな姿が、拝金主義に対する皮肉とも取れておかしかった。
メリーポピンズ役のジュリー・アンドリュースは歌が上手いのは当然のことながら、表情がとても豊かでチャーミングなところが役にばっちりはまっていた。
そして、バート役のディック・バン・ダイクの明るい笑顔がこの作品を支えていた。彼も表情がとても豊か。銀行の頭取と二役を演じているが、あまりにもキャラクターが違いすぎて面白かった。