ノリとテンポ、視覚的な奔放さ、そして素晴らしい歌たち
アクションとかSFが専門だとばかり思っていたヒュー・ジャックマンが、「レ・ミゼラブル」で味わい深い歌声を披露したときは、その多才ぶりに驚かされたものですが、今回はその彼が実在したアメリカの興行師P・T・バーナムに扮し、見事なショーマンぶりを発揮しています。
本作は昨年度の映画賞を総ナメしたミュージカル映画「ラ・ラ・ランド」と同じチームがミュージカル・ナンバーを担当したそうです。そう言われてみればなるほど、ノリノリのオープニングは凄いインパクトでして、主人公の生い立ちから現在に至るまでをたった数分間のナンバー一曲で描ききっているところが実にお見事です。このテンポの良さ、楽しさは確かに「ラ・ラ・ランド」のプロローグとエピローグを彷彿とさせます。
主人公のバーナムは、19世紀に一世を風靡した興行師だそうで、最初は今で言う“フリークス”を使った見世物小屋で大当たりし、後には珍しい動物や猛獣などを加えてサーカス団を結成し、世界中を廻ったいわゆる“偉大なる山師”とでも言いましょうか? 本作ではそんなバーナムを、家族を愛し自らの夢実現に向けて邁進する誠実な男として描いています。実際は、“見た目普通でない人たち”を集めてそれを見世物にして一儲けなんて、今の常識から考えるとドン引きなのですが、時代は今から150年も前の話なのですから、まずはあまり堅苦しいことは考えず本作を楽しまれることをことをお勧めします。
そういった意味からも、本作が現実離れしたミュージカル仕立てとしたことは正解でした。また、あまりにきれい事過ぎるバーナムのキャラクターも、ジャックマンが演じれば何となく納得させられてしまうのですから不思議です。元々バーナムの存在すら知らなかった私など、本作に登場する親指トムとかひげ女などを見て、かつて母親が話してくれた見世物小屋を思い出しました。昔から日本にもこの種の出し物はあったようですし、以前読んだイギリスの児童文学「ダレン・シャン」にも似たような描写があったので、この種の興業については、違和感というよりむしろノスタルジーを感じたほどです。
そう、奇妙なモノ恐いモノを見たりびっくりしたいという気持ちは今も昔も変わらない・・・本作を見ると、そんな昔のワクワク心を思い出すことが出来ます。また、登場するどの曲もシンプルで覚えやすく、インパクトがあります。その音楽に乗せて奇妙な人たちが満艦飾に着飾り踊ったり歌ったり。舞台がサーカスだけあって、その動きは上へ下へ斜めへと、縦横無尽、しかも高低差とスピード感を身を以て感じられるカメラワークも素晴らしいです。
物語のほうは、昔のサーカス興業という相当胡散臭い商売を今風のショービジネスとして描いているわけですから、冷静に見ればかなり無理があるのですが、そこはそこ、家族愛、希望と挫折、野心と失墜、立場を超えた若い男女の恋など、大衆受けするアイテムを上手く散りばめ、無難にお話をまとめています。何よりもダイナミックなミュージカル演出と素晴らしい楽曲がぬるい脚本を上手くカバーして、最新の視覚映像を以て立体的かつ流動的なエンターテイメント作品へと進化させているところが素晴らしいです。
(2018/2/21 記)