じんわりと染み入るいい作品だとは思います。
ただ、評価点や他のレビューに現れているほどの傑作か、と言われると私には文化背景や見識が足りないせいか、そこまで忖度なしに心の底までピンと来るものではなかったかな、というところはあります。
マレーシアという民族や宗教の背景、国としての多様性、そういうものに造詣が深い人ならいやおうなしにグッとくるのかなと思いますが、如何せん狭い視野で生きてきた無宗教の私から見てみると、宗教の違いで結ばれるのが難しい事も、諍いが起こることも、あくまで他国の事として俯瞰的に感じるのが限界なので、あー、こういう事があるんだな、という視点で見るのが精一杯。
といっても、映画としては、タレンタイムという単なる学校行事のようなものをベースとして様々な家族の問題を自然に取り入れていてとてもよく出来ているし、使われている歌や音楽はそれだけでグっとくるような力があり、とても良い。
ラストの弾き語りと、ライバル視していたクラスメイトが二胡で合奏してくるシーンは、楽器と歌の力でそこだけで涙してしまえるような力がありました。
セリフも、聞いたことありそうでなかったような素敵な言い回しや、家族のストレートな愛情表現、ちょっとしたコメディ感など、良いシーンが沢山。
公園でムルーとマヘシュが並んで座っている先に現れるのが、シャボン玉をふきながら戯れる裸の子供たち、という構図は今までに見た事がない不思議な美しさがあったり、本来青春群像劇というと、若かりし世代の燻った鬱々としたものや、赤裸々なものが多くてあまり好きなジャンルではないのですが、この作品は青春群像劇と言うにもふさわしいみずみずしい感じがあり、良いと思います。
強いていえば、マレーシアの映画製作の問題なのか、画質があまり鮮明ではなく、2009年というよりは1980年代っぽい画質なので少々古さを感じます。
あとは、うまく色んな事を絡めているけれど、絡めすぎて必要だったのかな、というシーンも時折あったような。
タレンタイムを牛耳る大柄の先生に、別の先生が唐突に告白して振られるシーンとか、宗教の違いだけでも十分に問題提起になる2人の恋愛関係が、何故聴覚障害まで入れなければならなかったのかとか、ハフィズを敵対視していた彼が、何故急にラストで気が変わったのかとか、マヘシュの母親が随分と子供っぽい所とか、ツッコミ所もないわけではないし、いらないのでは?というシーンやもうちょい丁寧に描いてもいいのでは?というシーンもありましたが、見る側に委ねられてる部分も結構ありましたね。
病床の母を演じる女優さんが、マレーシアの大女優さんで、ほんとに病床にいながらにしてこの役を演じたらしいので、そういう細かいところも含めてマレーシア文化なども調べてみればより良さがわかる作品ではあるなと思いますが、なんの予備知識もなしに見て全てを理解し、心底共感出来る映画か、と言われると自分にはそこまでのバックボーンはないので、補完知識が必要な映画だと思います。