朝鮮戦争、ドイツでの過酷な労働、ベトナム戦争。
生き別れになった父との約束を胸に、家族のため命を賭して働いた男の人生を描く。
ドクスは近所でも評判な頑固爺である。幼い孫娘にもお爺ちゃん怖いから怒らないでと言われる始末。街の再開発で店を売らないかと何度持ちかけられても断固として首を縦に振らない。弟妹や子どもたちは、もういい歳なのだしあんな時代遅れの店は売ってしまって新しい土地に引っ越せばと言い、ドクスの頑なさに呆れ顔だ。
物語は現在と過去が交錯する。今のドクスの言動は、理由を知らなければただ老人の頑迷さにしか見えない。しかし時折挟まれるドクスの歩んできた道を見れば納得できるものだった。ドクスの贔屓の歌手は彼を戦地で助けてくれた兵士。店を売らないのはそこが父と再会の約束をした場所だからだ。元々叔母(父の妹)の店だった"コップンの店"は、働きぶりを見込まれたドクスが叔母から託されていたが、呑んだくれの叔母の夫は叔母が亡くなると店を売ろうとする。ドクスは夢だった大学に受かり船長になる夢を目の前に、店を買い取るために進学を諦める。それまでにも何度も自分を犠牲にしてきたというのに。それも皆、いつか父と再会できると信じていたからだ。戦火の中、大型船に押し寄せる人並み。ドクスら家族は小舟に乗り込み、大型船の胴から縄梯子を伝って甲板に登ろうとしていた。父母はそれぞれ1人ずつ小さな弟妹を抱えていため、まだ子どものドクスもすぐ下の妹マクスンをおぶり登っていたが、途中でマクスンは落下。父はマクスンを探しに船を降り、そのまま船は出港してしまう。別れ際、父はコップンの店で逢おうと言った。ドクスの心にはずっとその言葉が楔のように突き刺さっていたのである。
終盤、生き別れの家族を探す番組でマクスンが見つかり、ドクスは母と妹を再会させることができた。しかしついに父は見つからなかった。再会直後に老いた母は亡くなり、家族が集まる。賑やかな居間を隔てた小さな部屋に篭り、子どもに返ったドクスが父に、よく頑張ったと抱きしめられるシーンは泣ける。
ラストでドクスが妻に、もう店は売ってもいい、父は歳を取りすぎてしまってもう来られないだろうと言う。悲しい台詞だが、ドクスの側に寄り添う妻の存在に心を慰められる。
ファン・ジョンミン、やっぱり上手いな。