「これが始まりなのだ」
午前十時の映画祭15は「ベン・ハー」で開幕。
ローマ帝国支配下のイスラエルを舞台に、ユダヤ人貴族ジュダ・ベン・ハー(演:チャールトン・ヘストン)の数奇な運命とイエス・キリストの処刑と復活を描くスペクタクル超大作。同年のアカデミー賞では作品賞ほか11部門を総ナメにし、この記録は2025年現在でも「タイタニック」(1997)、「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」(2003)と並んで最多タイ記録のタイトルホルダーである。私事だが、これにてアカデミー賞最多受賞記録保持作品を全制覇した。
噂には聞いていたが、想像以上に「ファントム・メナス」だったし、かと思いきや知らず知らずのうちに「もののけ姫」に物語が変わっていった。
ここから先は少し失礼な表現が続くので事前に謝罪する。
本作の圧倒的なスケールは素晴らしいし、恐らくはアカデミー賞の受賞レースでも横綱相撲だったとは思う。引用されることの多い戦車競技のシーンも凄まじかった。
しかし洋の東西、そして宗教観いずれも部外者である身からすると話が進むにつれて寒気がしてくる作品ではあった。2025年という、観たタイミングもあったとは思う。
そう遠くない昔、我が国では宗教と国家が対立したことがあった。結果として少なからず死者も出た。それは奇跡を信じた行き過ぎた個人崇拝から生じたものであった。勿論イエスが同じだと言うつもりは全くない(そもそも違う)。しかしこの物語の舞台の時代からすると、特にローマ人にとっては似たような映り方をしたのではないかと思うのである。そして今日の世界観も長い年月をかけて形成したからこそ受容されたものであり、やはりその間に多くの血が流された。ある話では、有史以来最も生命を奪った存在は「神」なのだそうだ。しかもその数は悪魔に対して文字通り桁違いの差をつけているという。
そんなことが頭をよぎって、後半には個人崇拝に対して非常に抵抗をおぼえた。少なくとも自分には「八百万の神々」の方が合う(その割にはモノ使いが荒いなオイ)。
演出上の問題なのか、あるいは制約があったのか、イエスは後ろ姿ばかりで最後まで顔を映さない(個人的には後者の理由によるものと思う)。しかしイエスとジュダの、いち人間同士による水のやりとりには目頭が熱くなった。あれを観ただけでもチケット代を払う価値はあった。いくら心が荒もうとも、喉の渇いた人間に水を差し出すくらいの慈悲は持ち合わせたいものである。