辻褄の合わない父エドワード・ブルーム(アルバート・フィニー,ユアン・マクレガー)の話に周囲は付き合わされている.彼の息子ウィル(ビリー・クラダップ)は,父の話から想像をしているのだろうか.父の回想と息子の想像は紙一重でもある.大きな魚や魔女といった御伽噺のようなモティーフが鍵を握る.鍵が首に下げられ,金の指輪が嵌められ,影絵が動いている.魔女と呼ばれる女性は,死に方が見える目玉を持っており,その目を眼帯の下に隠している.父はその目を見ており,驚くべき死に方をすると,病床で予知する.彼は予知夢を見ることができ,同時に語り部でもある.
カラス,ハチ,クモ,ヘビ,ヒル,ライオン,オオカミなど生理的に嫌悪される動物たちも見えようとしている.巨人カール(マシュー・マッグローリー)も視覚的に突出している.巨人を伴うエドワードは,生贄として自らを捧げるらしい.物語へ奉仕する姿として見える.父の妻サンドラ(ジェシカ・ラング,アリソン・ローマン),息子の妻ジョセフィーン(マリオン・コティヤール)は,ただ善であるようにも見える.古い道と新しい道の選択があり,エドワードが選んだ古い道の先には,アラバマの幻の街スペクターがあり,大通りの芝生の緑が鮮やかでもある.住人たちはロッキングチェアで揺れながらパイを食べる.裸足でいて,靴は窮屈ではないかと言っている.住人の一人,詩人ウィンズロー(スティーヴ・ブシェミ)は,のちに銀行強盗となって現れる.エドワードはそのように現れることに飛び込んでいく.サーカス団のキャロウェイ団長(ダニー・デヴィート)の懐へも飛び込み,徴兵され,落下傘で慰問のステージに舞い降り,社交性を活かしてハンディマティックの訪問販売にも手を染めていく.
サンドラとの出会いでは,時が止まり,のちに早回しになる.時間は水のように滞留し,川のように流れ出す.プールや沼がそこにあり,浴槽に沈み,豪雨を車中で迎える父がいる.そして彼はいつも喉が渇き,最後には川に放たれる.物語の中を泳ぎ出しているようにも見える.
ジェニファー(ヘレナ・ボナム=カーター)の傾いた家は,垂直を取り戻し,蘇りながらもまた老いていく.生は時間とともにあるように感じられる.