僕が映画を見始めた頃、既にスターだった、ロバート・レッドフォードが亡くなった。9月16日、89歳。大スターのはずなのに、その訃報はあまりにも静かに伝えられた。あまりにも淋しいので、昔の作品で、その思い出に浸ろうと思う。
間違いなく代表作。1970年度、キネマ旬報ベストテン第4位。
主人公は銀行強盗だし、敵に立ち向かうより先に逃げてしまうのに、この作品はどうしてこんなに良いのだろう。ダークヒーローと呼べるほど、やってることはカッコよくない二人を描いているのだが、やはりこの作品は僕の映画史に残る傑作と呼びたい。
まず、適度にユーモアの効いた脚本が素晴らしい。ブッチとサンダンスが、もう人生の峠を過ぎて下り坂に入った時期を描きながら、悲惨な感じは微塵もなく、二人のやりとりは笑いを誘う。
二人のキャラも良い。ブッチ・キャシディを演じたポール・ニューマン。このキャラにコミカルな性格を吹き込んでいる。作戦担当で、これまで人を殺したことがないという。盗みはすれど非道はせず。盗賊にこういうのも何だが、温かな人間味のあるキャラだ。
一方サンダンス・キッドのロバート・レッドフォード。外見はとにかくカッコいい。早撃ちの名手で、考えることや人付き合いは苦手だが、一度信頼した人間にはとことん付いていく。
この二人の友情を越えるような絆が、観ていて心地よい。
この二人に絡んでくるエッタ役のキャサリン・ロス。この三角関係が完璧に安定しているのが不思議だ。正三角関係とでも呼ぼうか。もともとキッドの彼女なのだと思うが、ブッチとエッタが仲良くしていても、嫉妬はない。それだけ三人は信頼し合っているということか。
良い映画には名場面、そして素晴らしい音楽がある。ブッチとエッタの自転車のシーンがとても楽しい。当然名曲「雨に濡れても」も、聞いているだけで感動してしまう。このシーンは会話などいれず、まるでプロモーション・ビデオのように見せる。ポール・ニューマンが実際にやってる自転車の曲乗りは、観ていてハラハラさせるが、とてもうまい。かなり練習したのではないだろうか。
良い場面には記憶に残る名セリフもある。追手に絶壁に追い詰められた二人のやりとり。そしてキッドの衝撃、いや笑劇の告白。やっぱ笑ってしまった。このセリフは有名なので忘れようもなく、ここで言うのは分かっているのに、笑ってしまう。
ラストのストップモーションも有名だ。効果音だけを残して、セピアカラーのストップモーション。その前のやりとりも泣かせる。ストップモーションでありながら、とても躍動感のある、素晴らしいショットだ。
バート・バカラックの音楽が良い。先程の「雨に濡れても」もそうだが、ボリビアでのエッタも加えた強盗シーンにかかる曲、歌詞はなく、ダバダバ、スキャットで歌っているのだが、このメロディが泣かせる。こちらも名曲である。活劇シーンではとても弾けるようなメロディ。落ち付いたシーンでは、心に沁み入るメロディ。これが交互に奏でられ、画面としっかりリンクしていく。ここでもセリフは一切入らず、音楽と画面だけを積み重ねていく。それでも雰囲気はとても良く伝わってくる。
昔の映画は、画としての構図が素晴らしい。この映画も良い画がたくさんある。カメラの撮り方もうまい。特に六人の謎の追手の追撃シーンが見せる。ここはブッチとの知恵較べになる。ブッチが追ってを振り払うために、次々と作戦を実行していくのだが、敵もさるも…。一定の間隔を置いて、ずっと追跡してくる六人を捉えたズームカメラが効果的だ。まいたかと思うと遠方からかすかに現れる六つの影。明かりが二つに分かれたかと思うと、また合流しようとする。遠くからその姿を見ているブッチとキッドの心境が伝わってくる。とても焦ってしまうのだ。観客にも、その焦燥感が伝染するようだ。
ドラマ的にも良い。この強盗でしか生きていくことが出来ない二人が、ボリビアで足を洗おうとして就いた仕事で、結局人殺しをしてしまった皮肉。ボリビアに行けば良いことがあるとブッチが言ったのに、そこは貧しい国で、また結局強盗しなければ生きていけなくなってしまう。その後にブッチが行きたいと言い出した国は…。
う~ん、良い場面がたくさんあって、きりがない。やはり名作と呼べるのは、このようにたくさん話がしたくなるような作品を言うのだろう。セピアカラーの使い方も良かった。その後に続くカラーもとてもきれいに見える。ポール・ニューマンもロバート・レッドフォードも僕の好きな役者だ。この二人の“間”が絶妙なのだ。映画の中で行われるアイコンタクトでお互いの行動を確認するあたり、その演技がそのままポールとレッドフォード本人の息が合っているように見えて、観ていて気持ち良かった。
この二人の演技は、その後もう一度『スティング』で花開く。監督は同じくジョージ・ロイ・ヒルだ。こちらも傑作と呼んで差支えなかろう。