脳性麻痺で体の不自由な女性と社会に適応出来ない男性の生き様を真正面から描く衝撃作品!
ネタバレ
備忘メモ:
主役の二人、ホン・ジョンドゥを演じたソル・ギョングとハン・コンジュを演じたムン・ソリが素晴らしかった。
ソル・ギョングは、恐らく精神面で少しハンディを抱えており他人との距離の取り方が苦手で自分中心でしか行動出来ない男性役をまさに体現していた。過度に行動の異常さを演出していないが、明らかに迷惑だよなぁ、という様子を上手く体現していた。
ハン・コンジュは脳性麻痺で体の不自由で、常に身体や顔を妙に捻った動きをしている。本当にこういうハンディを背負っている人が演じている、と思ってしまった位の迫真さだった。時々、健常者の動作に戻って自分の気持ちを表現するシーンがあるが、それがミュージカルを観ている感覚を想起させて上手くメリハリを利かせた面白い演出だと思った。渋滞の高架道路でホンがコンを抱えてダンスするシーン、ホンが見た夢(壁掛けオアシスの絵に描かれているインド女性、子供、像が出てきて二人と踊る)を再現するシーンのカメラワークも素敵だ。手持ちカメラで自在にアップ顔や周りから映す効果など、映画的な効果を上手く駆使した監督だ。
一方で、どこかドキュメンタリー・タッチな視点も感じられる。私は、コンのあの動作をずっと観るのは辛いと感じたし、ホンがコンを襲うシーンは観るに絶えず、嫌悪感で鑑賞を止めようかと思った位だ。でも、そこからホンも気持ちに変化が生じる。仕事をしようと思う様になるのだ、コンの為に。そこあたりから、ホンの自分本位の行動に対する私の感情が変わっていった、肯定的に見れる様になったのだ。社会から受け入れられないコン、コンの障害を使って国からマンション補助をだまし取る兄などのシーンを観たからかもしれないが、ホンのコンを思う純粋な気持ちに、心の芯の強さを感じた。
韓国映画ではテンションのメリハリが重要だが、この作品にも充分に用意されていて、二人が裸で愛し合うシーンをコンの兄たちに見つけられるシーンはハラハラドキドキだ。
警察官は「あんなに身体の不自由な人を強姦しようとするなんて、人間じゃない」は一見その通りに思えるが、次の言葉「おまえ、よく性欲が沸くなぁ?」は、この警官はコンを人間と見なしていない事を証明していた。そして、同じことを考えていた私自身に自己嫌悪を感じさせた作品でもあった。嫌悪感を感じる、ということは、私自身の中に潜む嫌なものを感じてしまった、ということでもあるのだ。
木を登ることに何の意味があるか?少しでもコンに近づきたかったのかな。ラジオを大音量にすることで、自分も同じことを感じていることを証明するコン。あ~、素敵~
ラストのホンからコンへの手紙は、何か救われるものを感じた。飄々とした感じで「お元気ですか?」。「大脱走」のスティーブ・マックイーンを思い出した。
ホンの兄は常々「社会に適応しろ、社会に責任を持て。」と言っていた。中盤に思わぬ真実が明らかになるのだが、兄の罪をホンが身代わりになって牢屋に入ったのだ。お互いの合意があってのことだろうが、社会に適応出来ない奴だから、牢屋に2年6カ月居ても構わんだろう、的な考えがあったに違いない。コンの兄も、妹を利用してマンション補助を受けながら、妹はボロアパートに隔離している。心配なんかしていない・面倒もみていない、世間から隠したいだけだ。そんな本音の社会に誰が好き好んで適応するだろうか?そんな思いが感じられた。