喋り続けている男(エドワード・ノートン)の声が聞こえてくる.声に合わせて動いている男は,月給取りで生計を立てているらしく,車のリコールの査定などで国内の出張に飛び回っており,北欧家具などを取り揃えて悦に入っている.睾丸がんを患っているというわけでもないのに,癌患者のサークりに出入りし不幸を分かち合った気でいる.こうした日常はテンポよく紹介され,リズミカルに壊されていく.
ボディービルダーであったボブ(ミート・ローフ)の乳房に顔を埋め泣いているところに肉欲とその破壊への前兆がないではない.不眠症が彼の日常感覚を悪夢感覚へと連れ出しているようで,「コピーのコピーのコピー」など複製が行き渡り,消費者社会で希薄なリアリティの所在が破壊と暴力に求められている.
男は,自分の洞窟に入っていくとペンギンがいる.その姿は自らのシャツとネクタイ姿に色合いが似ている.イカサマ女のマーラ(ヘレナ・ボナム=カーター)と出会い,サークルの曜日や時間を分け合って,そこにある癒しや瞑想タイムを棲み分けしていく.しかし,マーラは奇跡を見せるかのように,交通量の多い車道をわけもなく横断していく.のちにタイラー(ブラッド・ピット)が猛スピードで逆走するシーンにマーラの奇跡は接続しているように感じる.
派手なタイラーであるが石鹸の製造と販売をしているらしい.なぜ彼と飛行機の座席に隣同士になってしまったのだろうか.彼は爆弾でもあり,爆弾によって喋っている男と接近していく.爆弾にも様々がある.振動を感知して作動するもの,石鹸などの日用品からも爆弾の製作は可能でもある.男の部屋がガス爆発し,モダンリビングがパーになり,二人の間にあった障壁をも破壊したのか,二人は友のように殴り合う.そこには原始的で動物的な友愛が感じられる.タイラーは映写技師でもあり,フィルムにいかがわしいコマを割り込ませる.ウェイターもして,異物を気づかない程度に混入させ客に振る舞う.殴られたいし,殴れば殴り返される.こうした関係は彼らの同棲や「クラブ」の共同運営にまで至る.そこは廃墟でもあるような建物に住み,見捨てられた街のペーパー通りの路上でゴルフの打ちっぱなしまでする.殴らることのリアルは,男から音を遠のかせており,母子家庭世代としての共通項が母性をどこかに求めている.
毎週ルールを作っていく.ファイターかどうかが問われる.説明は不要であり,禁じられただ動き,殴り,殴られ,血を流すことのみが絶対でもある.有名人や歴史上の人物と戦いたい欲望もそこにある.ファイターたちは社会へと都市へと繰り出し,喧嘩を売り歩いていく.底まで落ちるには強い痛みの経験を必要としている.「スペースモンキー」とも呼ばれるタイラーの軍団が形成され,質問は禁じられ,メイヘム計画が謎のまま拡大しているらしい.地下から地上へとテロリズムは拡散しようとしているが,男はパンツ姿で走り出してもいる.言葉の過剰が身体性と共同体の原理と奇妙に混じりあう.