こういう作品も見られるからU-Nextはありがたい。
ちっとも古く見えないのに、 なんと1969年の作品。(街角に停車してる「ミニ」の型が古いのと、バンドが演奏してる音楽が懐メロすぎることくらいしか気づかない)ビリー少年は実は私よりだいぶお兄さん、そしてイギリスの中でもイングランドが舞台なのに(北部ヨークシャーとはいえ)、何をしゃべってるかさっぱりわからない、強いアクセント。
労働者階級のビリーの家庭は、父が蒸発し、子どもの面倒を見たがらない母、すでに労働に嫌気がさしている兄。子どもたちを一切理解しようとしない教師たち。ただ、子どもたちの表情は、それほど暗くはない。紛争地域で、爆撃に慣れてしまった子どもたちみたい。この作品中でいじめられているのは、肌が黒い子でも宗教が違う子でもなくて、ほぼ同じ属性をもっているけど、いつも少し外れてる子たち。なかでもビリーは、家が貧しいこともあるけど、自分の考えを持っていて、サッカーのための服を用意するためにあくせくしたりしないで「サッカーは嫌いだからユニフォームは買いたくない」と言って教師の標的になってしまう。日常的な差別とかいじめって、自分より少しだけ程度が低いと思う人が標的になりがち。
そのちっちゃな違いが、黒板の前でケスの話が止まらないビリーに対する敬意(と、一部のやっかみ)に反転する瞬間。
子どもを特別可愛くも描かない。ビリーは可愛いんだけど、自分を曲げないので親や教師からめんどくさがられることが多そうだ。
この子は今65歳くらいか。英語のWikipediaにはこの俳優、デイヴィッド・ブラッドレー(のちにダイ・ブラッドレーと改名)の項目があって、その後は演技の道に進んで地味だけど評価もされて今に至っていることがわかりました。最近の写真を見たら、表情はこの頃と同じ。おっさんになったけど痩せてて、かなり雰囲気残してます。どんな環境でも意志が強そうで、なんかいいな。ケスを”演じた”鳥は映画のためには一羽も殺されなかったことも。なんか、それだけでちょっと救われた気がします。現実には傷ついた子どもは今も昔もたくさんいて、優しい大人ががんばってもなかなかすくい切れないのかもしれないけど…。
ケン・ローチ監督は、ぜったいにいわゆるハッピー・エンディングを持ってこないけど、自分には簡単に「助ける」なんてことできないこともわかってるけど、こういう誰にも知られない小さきものたちをずっと見てる。