ケス

けす|Kes|Kes

ケス

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レビューの数

21

平均評点

79.0(98人)

観たひと

177

観たいひと

38

基本情報▼ もっと見る▲ 閉じる

ジャンル ドラマ
製作国 イギリス
製作年 1969
公開年月日 1996/5/18
上映時間 112分
製作会社 ケストレル・プロ作品
配給 シネカノン
レイティング 一般映画
カラー カラー/ビスタ
アスペクト比 ヨーロピアン・ビスタ(1:1.66)
上映フォーマット 35mm
メディアタイプ フィルム
音声 モノラル

スタッフ ▼ もっと見る▲ 閉じる

キャスト ▼ もっと見る▲ 閉じる

解説 ▼ もっと見る▲ 閉じる

ハヤブサと戯れることだけが生きがいの労働者階級の少年の姿を、叙情性と冷酷さが同居する鮮やかなタッチで描き出した一編。監督は「夜空に星のあるように」「リフ・ラフ」「レイニング・ストーンズ」のケン(ケネス)・ローチで、戦後イギリス映画で最も重要な映画作家と言われる彼の長編第2作。素人俳優の使用、徹底したロケーション主義など、禁欲的で知性あふれるスタイルが見どころで、監督自身が自らの最高傑作に挙げている。製作は『キャシー・カム・ホーム』(日本未公開)などローチとのコンビで知られるトニー・ガーネット、本作のためにローチとケストレル・フィルムズを興した。脚本はバリー・ハインズの未発表小説『Kestrel for Knave(少年の長元坊)』を基に、ハインズとローチが共同で執筆。望遠レンズの巧みな使用とロングショットの交錯が印象的な撮影は、のちに「キリング・フィールド」「ミッション」を手掛ける名手クリス・メンジス。出演は主人公ビリーに扮するデイヴィッド・ブラッドリーをはじめ、全員が実際に炭鉱町に住む労働者階級の人々である。ビリーに理解を示す教師を演ずるコリン・ウェランドのみが職業俳優で、後年「わらの犬」(出演)をへて、「炎のランナー」(81)で第54回アカデミー脚本賞を受賞した。ロケ地の炭鉱町は原作・脚本のハインズの生まれ故郷バーンズレイで、主要な舞台でもある学校では、彼が実際に教鞭を取っていたこともある。69年カルロヴィ・ヴァリ映画祭でグランプリを受賞。日本ではテレビ放映のほか、94年に川崎市民ミュージアムのケン・ローチ回顧特集でも上映。

あらすじ ▼ もっと見る▲ 閉じる

中学卒業を控えたビリー(デイヴィッド・ブラッドレー)は、母(リン・ペレー)と炭鉱労働者の兄ジャド(フレディ・フレッチャー)の三人暮らし。父はずっと以前に家出し、生活は苦しく、彼も毎朝新聞配達のアルバイトなどをしている。学校では劣等生だ。ある日の早朝、ビリーは森の古い僧院の壁にハヤブサの巣を見つける。ハヤブサのヒナを飼いたいと思った彼は、土曜日に町の古本屋で猛禽の訓練法の本を万引きし、その晩兄と母が出掛けた後で読みふける。夜明け近く、酔って帰った兄に起こされたビリーは森に行き、ハヤブサのヒナを捕まえた。ヒナはケスと名付けられ、ビリーの訓練にどんどんなついていく。学校の体育の授業で、ビリーは体操服を買う金もなく、運動も苦手なので教師に目の仇にされている。この教師はサッカーの試合でも生徒相手なのに本気になり、試合に負けたのをゴールキーパーのビリーのせいにしていびり抜き、冷水のシャワーに閉じ込めたりする。独善的な体罰主義者の校長も、ビリーたちを理不尽な目に合わせる。そんななかで国語教師ファーシング(コリン・ウェランド)だけは、やる気のない彼にも粘り強く接し、ある日彼にクラスの前で話をさせる。最初はひっこみがちなビリーも、ハヤブサの話になると目を輝かせて話し始めた。彼はビリーを体の大きな同級生のいじめから救い、ハヤブサのケスを見せてほしいという。夕方、牧場で無心にケスを飛ばせるビリーと、その彼を見つめる教師。ある朝、ジャドがビリーに馬券を買うよう指示した書き置きをしていった。ビリーは馬券売り場に行くが、これは外れるから買わなくていいと聞いて、預かった金を使ってしまう。ところがこの馬券が大穴で、怒ったジャドが学校に乗り込んでくる。ビリーは兄から逃げ回るが、ケスのことが気になり慌てて帰宅すると、ケスはジャドに殺されていた。ビリーは泣き、母はジャドを罵るが、なすすべはない。ビリーはゴミ缶に捨てられていたケスを拾うと、草むらに墓を掘って埋めた。

キネマ旬報の記事 ▼ もっと見る▲ 閉じる

1996年7月上旬夏の特別号

外国映画紹介:ケス

1996年5月下旬特別号

COMING SOON【新作紹介】:ケス

2023/04/01

2023/04/01

80点

VOD/U-NEXT 
字幕


孤高のハヤブサ、ここに墜つ

ケン・ローチとの出会いは衝撃の『わたしは、ダニエル・ブレイク』。その余波を受けて近作『家族を想うとき』『ジミー、野を駆ける伝説』をみた。理不尽極まりないが確かにそこにある世界が描かれていた。

監督自ら最高傑作と語る『ケス』。最初から贔屓目でみてしまう私をお許し下さい。先述のハードな作品群と比べると穏やかにさえ思える。良い教師もいれば悪い教師もいる。良い大人もいれば悪い大人もいる。良い家族もいれば悪い家族もいる。良い同級生もいれば悪い同級生もいる。私とて57年間も生きていれば経験した、ある意味、当たり前のことかもしれない。

孤高のハヤブサ・ケスは地に墜ちたが、少年・ビリーの未来は鎖された訳ではない。少なくとも彼には級友を前にして目を輝かせて話せることがあったのだから。

もし、少年の行き着いた先が『わたしは、ダニエル・ブレイク』や『家族を想うとき』の希望無き世界であれば切な過ぎるが、きっとそれこそ目を背けてはいけない現実なのだ。

2022/06/30

2022/07/16

80点

VOD/U-NEXT/レンタル 
字幕


ヨークシャー地方の寂れた炭鉱町で、母と兄ジャドと暮らすビリー。小柄な体型で運動も勉強も苦手、体の大きな同級生にいじめられながら自身も下級生には手厳しかったりするけれど、ヒナから育てたハヤブサのケスと居る時は本当に生き生きとしている。特に、授業中に皆の前でケスの話をするシーン、気にかけてくれる国語教師にケスの飛ぶ姿を見せるシーンが微笑ましい。が、体育教師や校長がびっくりするくらい高圧的で、あの環境は子どもたちに悪影響しかない。そして、容赦ないラストである。ジャドの怒りは確かに分かるものの、命あるものに対する行動としては相当に酷い。ましてや、ビリーにとってのケスは自由や希望の象徴でもあったわけで、それが絶たれたも同然と言える。ただ、ジャドはジャドでそれだけ閉塞的な環境で過ごしているということ。誰もが辛い。

2022/06/01

2022/06/01

46点

選択しない 
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無情

飛べない鷹は帰る家さえ無い。

2021/05/11

2021/05/11

80点

VOD/U-NEXT/レンタル/テレビ 
字幕


これが監督の優しさか

こういう作品も見られるからU-Nextはありがたい。

ちっとも古く見えないのに、 なんと1969年の作品。(街角に停車してる「ミニ」の型が古いのと、バンドが演奏してる音楽が懐メロすぎることくらいしか気づかない)ビリー少年は実は私よりだいぶお兄さん、そしてイギリスの中でもイングランドが舞台なのに(北部ヨークシャーとはいえ)、何をしゃべってるかさっぱりわからない、強いアクセント。

労働者階級のビリーの家庭は、父が蒸発し、子どもの面倒を見たがらない母、すでに労働に嫌気がさしている兄。子どもたちを一切理解しようとしない教師たち。ただ、子どもたちの表情は、それほど暗くはない。紛争地域で、爆撃に慣れてしまった子どもたちみたい。この作品中でいじめられているのは、肌が黒い子でも宗教が違う子でもなくて、ほぼ同じ属性をもっているけど、いつも少し外れてる子たち。なかでもビリーは、家が貧しいこともあるけど、自分の考えを持っていて、サッカーのための服を用意するためにあくせくしたりしないで「サッカーは嫌いだからユニフォームは買いたくない」と言って教師の標的になってしまう。日常的な差別とかいじめって、自分より少しだけ程度が低いと思う人が標的になりがち。

そのちっちゃな違いが、黒板の前でケスの話が止まらないビリーに対する敬意(と、一部のやっかみ)に反転する瞬間。

子どもを特別可愛くも描かない。ビリーは可愛いんだけど、自分を曲げないので親や教師からめんどくさがられることが多そうだ。

この子は今65歳くらいか。英語のWikipediaにはこの俳優、デイヴィッド・ブラッドレー(のちにダイ・ブラッドレーと改名)の項目があって、その後は演技の道に進んで地味だけど評価もされて今に至っていることがわかりました。最近の写真を見たら、表情はこの頃と同じ。おっさんになったけど痩せてて、かなり雰囲気残してます。どんな環境でも意志が強そうで、なんかいいな。ケスを”演じた”鳥は映画のためには一羽も殺されなかったことも。なんか、それだけでちょっと救われた気がします。現実には傷ついた子どもは今も昔もたくさんいて、優しい大人ががんばってもなかなかすくい切れないのかもしれないけど…。

ケン・ローチ監督は、ぜったいにいわゆるハッピー・エンディングを持ってこないけど、自分には簡単に「助ける」なんてことできないこともわかってるけど、こういう誰にも知られない小さきものたちをずっと見てる。

2020/08/17

2020/08/18

95点

映画館/東京都/早稲田松竹 
字幕


悠々と空を舞う

50年も前の作品だが、古さを感じさせない。閉塞感を抱きながらも懸命に生きる人々を見つめるケン・ローチ監督の温かな眼差しは、当時も今も変わらないのだと知る。

炭鉱街に住む少年ビリーの周りにいる大人たちは、強権的で粗暴な人物ばかりだ。母親と兄は常に口汚く罵り合っている。学校の教師はすぐに大声で怒鳴る。礼拝の時でさえ、大声を発する教師に辟易してしまう。誰もビリーの話をまともに聞こうとしない。しょっちゅう不当な扱いを受けるビリーだが、ビリーはそんな扱いにも慣れてしまったのか、諦めたような表情をしている。その姿がとても切ない。

しかし、ビリーが飼育している鷹のケスと共にいる時、ビリーの表情は一転して生き生きとしている。ケスは、ビリーから餌をもらっていても、ビリーに懐くわけでもなくどこか威厳を感じさせる。そんなケスに、ビリーはどんどん魅了されていく。自由に空を翔ぶケスが、いつもいじめられ、将来の夢も持てないビリーの心に秘めた願望を体現しているように思えた。

森の奥の野原で、ビリーがケスを放して調教する場面の映像が美しい。

哀しい展開へと進んでいくのだが、ビリーがたくましく抑圧に抗う姿をユーモアを織り交ぜて描いているためか、重苦し過ぎることはない。とてもビリーを愛おしく感じた。

ケン・ローチ監督も自身の最高傑作と言っているそうだが、胸の奥をきゅっとしめつけられるような、まさに珠玉の映画だ。

2020/08/16

2020/08/18

70点

映画館/東京都/早稲田松竹 


みずみずしいケン・ローチ初期の作品

鷹を飼育するのが唯一の生き甲斐だった少年。炭鉱の町での階級問題、貧しさ、学校でのいじめなど社会問題を背景に、少年の周囲が描かれる。

出演している役者の多くは現地の素人ということもあり、ドキュメンタリーにも見える。我が、羽仁進にも通じる演出方法なのだろう。ケン・ローチ初期の作品ということもあり、みずみずしい。