原題『受胎告知』のまま仮にATGから発表されていたらより広い層から評価を得られた作品だと思う。ただ、70年代は邦画に圧倒的なパワーがあった時代なので相対評価では最高傑作とまでは言い切れない。芹明香を筆頭に伝説の繭にくるまれているが故のインパクトが大きいのではないか。とはいえ、過ぎ去りし時代をダイナミックに切り取った名作であることは間違いない。
通天閣がシンボリックに聳え立つ猥雑なあいりん地区の風景をさながらアートの如く切り取った映像美が冴え渡る。俯瞰で捉えられた、泥沼の中でもがく老若男女の根源的な営み。ガス爆発シーンの凄絶な美しさは最早、極北に位置している。
芹明香、宮下順子が対極的なエロスのアイコンを演じる。結果的に芹明香が表舞台から姿を消して、宮下順子がある種の普遍性を獲得した理由も何となく理解出来る。モノクロからカラーに切り替わった瞬間にカタルシスはマックスに達し畏怖の念すら抱いた。鶏は虚しく宙吊りとなった。「新天地は何処にもない。今いる場所を新天地に変える努力をすべきだ」。若き日の先達の言葉が甦る。