その後の路線変更を考えると、とてもじゃないけど東映の作品とは思えないくらいに上品な作風。ある意味、奇跡としか言いようがない出来栄え。京都が舞台の話でありながら、東映東京が撮っているというのもまた興味深い。
田坂具隆監督は東映にて前年に「ちいさこべ」、更にその前年には「はだかっ子」を撮っているが、両者と比べものにならないくらいその作劇や演出はグレード・アップした。監督は同じ日活出身の内田吐夢監督とよく対比されるが、各々の違いがこの頃から鮮明に表れたのではないだろうか。内田監督は男性的でスケールの大きい骨太な作風、田坂監督はもっとこぢんまりとしてはいるが、詩情溢れ、なおかつ女性の撮り方が巧い。雷で原爆の記憶がフラッシュ・バックする女性を登場させる辺りがいかにも監督らしいが、映画オリジナルの登場人物なのだろうか?無愛想で口の堅いおばあちゃんにも、やはり監督の人柄がさり気なく出ている気がする。