まず笑える場面がある.熊虎(若山富三郎)はお竜(藤純子)の大事な場面で乱入してくる.そして滅法強いので膠着した事態は好転するのであるが,何やら熊虎がぶち壊した席が真面目すぎたのか,滑稽で可笑しいのである.鮫州の政五郎(安部徹)とお竜が支援する一家との抗争は,大日本神明会の金井先生(天津敏)の仲介によって手打ちになろうとしており,その調停のかしこまった場に,予兆もなく熊虎が現れてしまう.この物語の破壊が楽しい.
浅草六区が舞台になってくる.凌雲閣の十二階も見えている時代設定である.人気の劇場「東京座」の興行を仕切っているのは鉄砲久(嵐寛寿郎)である. ここにおめおめと登場しているくるお竜がいる.青山常次郎(菅原文太)もお竜と怪しげな関係を結んでいる.この世界の女と男たちは「盆の上の勝負」に命を賭けている.
街路には風がやたらと吹いている.「いやなものが降ってきた」と見ると雪が降り始めている.大日本神明会の金井先生は人力車から降り立って,鉄砲久を訪問している.この死神のような男は不吉でもある.橋の親柱や張り紙,水門のハンドルなどが人物などそっちのけで存在感を放っている.鉄砲久の養女にもなった五十嵐君子(山岸映子)やニッケル(山城新伍)といった人物も濃く,印象的に現れ,あるいは去っていく.また,東京座で目下公演中でもある劇団関係者も変ではある.一座を率いる佐藤(近藤洋介)はなんだか演技に厳しく,看板女優の小川双葉(沢淑子)の演技が気に入らないらしい.佐藤は演劇人ではなく「芸人」の根性を見せるつもりでいる.
「喧嘩はならねえぞ」という親分お言葉が響いてくる.彼はシリーズの定石通りに床について死んでいこうとしている.「銀次」と呼ばれている銀次郎(長谷川明男)も刺されて階段から落ち,上りかけて,やはり絶命して落ちていく.お竜の乗る馬車は走るだけなく,急停車するのも異様である.お竜と彼女の天敵となってしまった政五郎の決着の場も一風変わっている.