その白昼夢は,真夏の夢でもある.また,多くの光が輝き,廃墟のような現実の暗がりを忘れさせるものでもある.水面が白く光り,かけられたサングラスもまた反射し白く光っている.水たまりの水面の向こうには逆さまの別世界があり,合わせ鏡の向こうには無限に光が伸びていく.
一方で友引高校の学園祭の中には第三帝国が築かれ,レオパルド戦車が持ち込まれている.学園の中には雑踏があり,バルタン星人,ゴジラ,カネゴンといった夢の住人たちが着ぐるみとなってうろついている.戦車の砲を筒先からのぞいたラムは,砲台の中にダーリンこと諸星あたるらがあたふたとする姿をやや遠く見ている.水族館ではガラス越しに魚が泳ぎ,「夢邪気」が乗り移ったようなタクシーの運転手が長短のある時間のいいかげんさと客観について語るとフロントガラスはモニターのように意識される.また,夢邪気はモニターによって夢を管理しているらしい.
高校のモルタル3階建の校舎には,時計台が据えられており,長針も短針も失われている.時間が軸を失い,空間の上下も反転する.その校舎の正面ファサードは,どこか「がしんたれ」と呼ばれる獏の豚のような顔にも似ている.
ともあれ,友引町全体が浦島太郎になってしまったらしく,亀の甲羅の上に諸星家を中心軸とした世界(友引町)が乗っている.面堂終太郎やしのぶさんは,世界の夢のような構造に薄く気付いており,破戒僧のような「チェリー」の失踪や青カビを被った温泉マーク先生の見るデジャヴュは,世界の構造に直結した出来事でもある.しかし,親鸞,ゲーテなどを引用する校長をはじめ,多くの者は夢の中で学園祭の前日準備に奔走するのみで気づかない,が,やがて,ラムちゃんと諸星を取り巻く人々のみが夢の中に取り残されその廃墟と楽園を謳歌するようになる.
さくらはバイクで走る.面堂の率いる一行は,飛行機ハリアーで着陸し,街を俯瞰するが,燃料切れで着陸する.夜の街の静けさに,ちんどん屋が寂しく興行する.テレビモニターからは些細な映像と音が流れてくる.名曲喫茶の名曲も懐かしさによって夢幻を演出する.あったはずの陸橋がなく,迷路のような路地が現れる.雨が降り,電話のベルが鳴り,風鈴の音が響く.蝉の声はノイズのようにも聞かれ,プールに沈んだ戦車は,歴史の敗退を隠喩する.欲求不満のため,戦車は街に発砲する.メガネは共産主義的な思想も持ちながら,グループを統制しようという矛盾を孕みつつ,「友引前史」として残された人類としての使命を記録として語るのみである.このデタラメな世界は,SF的なイメージや水辺のフランケンシュタインのノスタルジーに重なる.電気や水道などのインフラからの供給はありつつ,24時間営業のコンビニエンスストアの商品は,絶えず,輝いている.