アレックス三部作のトリ、パリ最古のポンヌフ橋を舞台にする。考えると、橋を舞台にすることは多くの
利点がある。人が行き交い、クルマが走る。橋の下には船が通る。人間ドラマの結節点だ。水は美しく
映える。その上橋自体が極めて美しい。人が川に飛び込む事件や事故もある。ところが映画の世界では、
橋は男女の待ち合わせ場所や爆破対象で、終始橋をモチーフにすることは少ない。
迂回路がない橋はロケが難しいのか、オープンセットではお金が掛かりすぎるのか、ウィキペディアを
読むと、本作も膨張する予算面やセットの問題で、完成まで紆余曲折があったようだ。
ポンヌフ橋は改修工事に入り、通行止めになっている。原則人は家に帰るので、橋に集まる人はホーム
レスになるのかもしれない。ある意味、リアルな背景を持たないアレックス(ドニ・ラヴァン)のホームには
ちょうどいいのかも知れない。しかしアレックスは幕開け早々に交通事故で足を轢かれてしまう。助けて
くれたのがミシェル(ジュリエット・ビノシュ)で、彼女もまた夜のパリを彷徨っていたのだった。足の治療
の終わったアレックスがポンヌフ橋に戻ると、なんとミシェルが眠っていたのだった。
ミシェルは画学生だったが、失恋と失明のダブルショックにあい、左眼にアイパッチをつけている。
スケッチブックにはアレックスの人物画もあった。互いにどこか惹かれあう二人。不思議なポンヌフ橋の
共同生活が始まる…。
カラックス監督の映画はストーリーが感覚的で、理屈よりひらめきの人。フランス革命200年祭の花火
シーンは絶品、映画史に残る美しさ。アレックスの火吹きのパフォーマンス、ミシェルの欄干のダンスなど
祝祭表現は、リミッターが外れた見事さがある。ミシェルを探すポスターのシュールな展開、ポンヌフ橋
から引き離される現実の力の強さを示している。アレックスは逆上してポスター貼りのクルマと作業員を
火ダルマにする。この度外れぶりも凄い。結局、アレックスは警察へ。
刑期を終えたアレックスと眼が治ったミシェルの雪の舞うポンヌフ橋が、また素晴らしい。パリとセーヌ
の祝祭を描き、ドロップアウトした二人の破滅的人生の交錯を追う。
セーヌ川の泥を満載した浚渫船でパリを離れ、ル・アーブルへ向う二人。この暗喩をどう解くかが、
観客の最後の切ない試練となる。