『大いなる西部』The Big Country 1958
客「どうです?東部に比べたらここは広大な土地(Big country)でしょう?」
ジム・マッケイ「それほどでもありませんね。海に比べれば」
グレゴリー・ペック演ずる元船長ジム・マッケイは東部で知り合った大農場主の娘パット・テリルと結婚する為彼女の実家テキサス州サンラファエルのテリル少佐の牧場に来た。
地元の人々は「ビッグカントリー」だと思っているがジムから見ると海に比べたら「狭い土地」。ジムはアウトサイダーなのだ。
・東部人
・船乗り
・紳士
・変な帽子
イキってすぐ暴力を振るう西部男から見ると挑発されても言い返さないし殴り返しもしない男は軟弱者だ。なんと婚約者のパットすらジムを軟弱者扱いする。
牧童頭スティーブ・リーチ(チャールトン・ヘストン)は気性の荒い馬サンダーを乗りこなしてみろとジムを挑発するがジムは周囲の異様な気配を感じて「またにしよう」とかわす。
しかしテリル大佐やスティーブが出払った間に何度もトライしてとうとう荒馬サンダーを乗りこなす。しかしジムは立ち会った使用人には口止めする。
このグレゴリー・ペックの演ずるジム・マッケイのキャラクターは「西部の男」という言葉から思いつく特徴とは異なっている。
・メンツを潰されても平気
・人が見ていない所で努力する
・カッとして暴力を振るわない
物語を簡単に要約すると水源(ビッグマディ川)を巡るテリル家とヘネシー家の争いだ。
ビッグマディが流れる土地は祖父から受け継いだ教師ジュリー(ジーン・シモンズ)が所有してテリル家にもヘネシー家にも自由に水を使わせている。
テリル少佐とルーファス・ヘネシーは30年来憎み合っている。理由は不明だ。
ここに現れたアウトサイダー・ジムは争いを止めようと水源をジュリーから買い取って登記を済ませる。ジュリーの祖父の農場を復活させテリル家にもヘネシー家にも水を自由に使わせて争いをやめさせようとするのだが、、、
物語中盤、ジムは誰にも言わずに一人、馬で出かける。知らない土地に一人で出かけて迷子になっているはずと婚約者のパットは半狂乱になりテリル家総出で探索に出るが地図とコンパスを持っていたジムは無事に帰ってくる。迷子にはなっていないと言うジムの言葉をパットは信じない。次第にジムとパットの愛が冷めていく。
この「ビッグカントリー」の人達は「地図とコンパス」という科学や法律を重視しない。暴力で決着をつけようとする。だからジムから見るとこの土地は「小さな野蛮な田舎」だ。
「小さな野蛮な田舎」で法や科学を知る主人公が差別と戦う「アラバマ物語」を思い出した。「アラバマ物語」は「大いなる西部」の4年後の作品だった。グレゴリー・ペックが「アラバマ物語」に起用されたのは「大いなる西部」の主人公と「アラバマ物語」の主人公に共通するところがあるからかもしれない。
ワイドスクリーンに広がる西部の風景の中で豆粒のような人々が殴り合ったり殺し合ったりする様子をロングショットで捉える。ウィリアム・ワイラー監督は大いなる西部で小さな争いを繰り広げる人間の愚かさを冷静に描いている。西部劇の名作のように思われているけど実は暴力で決着をつけるマチズモは否定されている。
IMDBによるとペックとワイラー監督は東西冷戦のアレゴリーを意図して作品を製作したらしい。彼らはアメリカはソ連や中国ともっと話し合うべきだと考えていた。
だから一見敵役に見えるヘネシー家の親父さんが実は公正な人だったり元軍人のテリル少佐がただの戦争好きだったりなんだな。