フランコ総統の独裁政治は、彼が死ぬ1975まで続いた。本作の製作・公開年は、当局の検閲があったと
思われる。1973年には、フランコの腹心の部下が「バスク祖国と自由(ETA)」の爆破テロで殺害された
(Wiki)。独裁政権では、バスク語とカタルーニャ語は使用禁止となっていた(Wiki)。そのカスティーリャ地方
の小さな村が舞台。時は1940年で、世界中が戦火に包まれていたが、スペインでは長い内線が終わり、
フランコ独裁政権が確立していた頃。
村に巡回映画のトラックがやって来る。公民館で上映されたのが、1931年のボリス・カーロフ主演の
「フランケンシュタイン」。ラジオしかない時代、絵が動いて音が出れば驚異の世界が出現する。老若男女が
詰めかけて大盛況。イザベルとアナも映画に魅せられた。しかしアナは、少女と怪物が死んだ理由が判ら
ない。夜、ベッドをともにする姉のイザベルに尋ねるのだが、姉も判ったような判らない答え。
二人の父は養蜂家。蜜蜂の生態を観察し、働くばかりで死んでしまう蜂に、ある種の感慨を持つ。妻は内戦
で行方知れずの人に手紙を書き続ける。返信はあるのだろうか。夫との関係は冷え切っているようで、夫婦
の会話はない。可愛い姉妹がいるのだが、この家庭には温かさに欠ける。
姉妹も対照的。アナは素直で、姉のイタズラに引っかかる。イザベラは死んだふりをするが、度が過ぎた遊
びで、アナは怖がるだけ。家の近くには廃家があり、姉妹の遊び場ともなる。近くに鉄道線路があり、走る
列車から、一人の男が飛び降りる。男は廃屋へ逃げ込む。アナはフランケンシュタインを思い出したのか、
男に親切に接する。家から父親のコートを持ってきて、男に着させる。
ある日、廃屋に響く機関銃弾。男は警察に射殺される。男が着ていたコートから、アナの父親が呼ばれるが、
事態を理解できないだけ。母親は手紙を投函することなく燃やしてしまう。あの男宛のものだったのだろうか。
映画は説明的な描写は少ない。監督は検閲を嫌って、物語世界とは異なる暗喩の映画とした。観客は一つ
一つ暗喩のピースを当てはめる。蜜蜂の世界はフランコ独裁政治、冷え切った家庭は内戦で傷ついたスペ
イン社会、フランケンシュタインは制御できない内戦の象徴。アナの純粋さに、スペインの未来の明るさを
託したように感じる。メタファーの名作。