日疋祐三は病床にいる恩人の志摩博士から病院の建てなおしを依頼されて何年ぶりかで東京の土を踏んだ。病院内は院長の息子泰彦の無能をよいことに、その腐敗は目にあまるものがあった。日疋は或る看護婦の自殺事件で看護婦の石渡ぎんと知り合い、彼女から病院内の情報を手に入れることになった。やがて日疋はぎんから愛情を寄せられるようになったが、彼は院長の娘啓子に憧れに近いものを抱いていた。啓子の婚約者笹島の素行をなかば義務のように調べたが、その女性関係は乱脈をきわめていた。日疋はそれを啓子にありのまま伝えたが、啓子はかえって日疋を軽蔑した。そんな啓子も笹島の情事の現場に出あってから笹島の求愛を退けるのだった。院長の死は病院乗っ取り派の連中にはもっけの幸だったが、日疋は関西の資本家を動かすことに成功、新院長も決定し、乗っ取り派を追放することができた。病院が新しい組織と陣容で立ち直ったのを見た日疋は辞表を提出することに決めた。病院をやめ派出看護婦となったぎんは、最後の機会にと啓子を呼び出したが、啓子も今は日疋に愛情を抱いていた。二人は互いに日疋との結婚を胸に秘めて、冷い空気の中で別れた。志摩家を訪れた日疋は、陽の傾いた波打際で、啓子から愛情を打ち明けられたが、「あなたは僕のことなんか考えないで、どこまでもあなたの夢を育てなさい。今日あなたとこんな静かに会えるのは、きっと僕が、石渡君と結婚の約束をしたからなんですよ」こう語るのだった。