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鑑賞日 2025年  登録日 2025/05/13  評点 80点 

鑑賞方法 映画館 
3D/字幕 -/-
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永瀬正敏が出演してるので、なんとなく『箱男』の延長で観てしまった。

永瀬正敏が出演してるので、なんとなく『箱男』の延長で観てしまった。…何が始まるのだろうか?…何を見せてくれるのだろうか?…そう。彼の活劇風貌ならではの期待が匂い立つ。…水辺の街…運河…。この映画は、2014年製作だそうな。東日本大震災直後のあの頃の私たちの歪められた、腫れ上がったあの日常。朽ち果てた何かの施設のような廃屋と河川に浮かぶ災害の生活残骸を集める寡黙な主人公に濃縮される。この映画は、物音の音声はちゃんと聞こえるのに、話される言葉はほぼサイレントだ。…あの地震がなければじゃなくて…あの事故がなければだったこと…。…言いたくても…声が出ない…声にならない…あの頃の空気感は確かにそんな風だった。…廃屋の天井から宙吊りにされる紙に書かれた言葉達…。呪縛にならないように曇天にせめてもの天日干しは救いだ。だが、永瀬正敏は『箱男』同様に、流れに逆らうかのように、過去・現在・未来の時穴を覗き、そこに籠り、苦行に耐え、不屈の決意の巌窟王の風貌を魅せる。…漂流したかのような女性…。病院看護士とおぼしきその女。ふたりは、番いになるが、アダムとイブではなく、只の男と女にすぎない。積まれた瓦礫を天災と人災の仕分けるなんて出来ない。なのに、丸ごと背負って未来に伝えるのはいつもふたりのような普通の生活者の仕事になる。「流れる」のは河の流れで、「流される」のを仕向けられるのは生活者達と相場は決まっている。いつの間にか群がる河岸の人たち。…亡き人たちの声もまたサイレントだ…ふたりは知る。その声援の声とは限らない…詰りの声もあるはずだ…それでも生きてゆけ!…そう。そんな声もきっとあるはずだ。群衆の中に消えるふたり。まずは毎日のお決まりながらの常套句を噛み締めながら、未来への伝言と伝承を嘘偽りなく、口伝えなければならない。散在する未整理の問題が溢れる限り、過去であっても過去ではない。永久にモノクロのままの閉ざされた現在なのだ。短い映画ながら、そのメッセージはとてもとても痛い。