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鑑賞日 2010/12/07  登録日 2025/05/13  評点 60点 

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3D/字幕 -/-
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巨大な鉄塔も揺らす怪力

 「力道山の鉄腕巨人」であります。人気絶頂の国民的ヒーローが映画主演を果しました。1954年公開、製作は新東宝。監督は並木鏡太郎、脚本は小崎政房、音楽は原六朗。白黒スタンダード、91分。

 子供たちに大人気の力道山(本人)、老人兵六(柳家金語楼)の子供の保(小畑やすし)が力道山のファンだが、小児麻痺で歩けないと云ふ話を聞き、それではと早速保の家に訪ねます。力道山は保を励まし、僕たちは親友だと語るのでした。良い奴。

 突然場面転換。保の夢です。何処かのジャングルで髭もぢやの大男(力道山)と少年(小畑やすし)が生活してゐます。その近所で、ギャング団が老博士(古川緑波)から、発明品の設計書類を奪はんとしてゐます。博士の弟子・池島(小笠原弘)がカネの為にギャング団に情報を売つたのです。「殺人光線銃」といふ危険なもので、ギャング団は悪用するに決つてゐます。誤つてギャングの一人に発射したところ、たちまち骨となり溶けてしまひました。

 大男たちが駆け付けた時は、書類は奪はれた後でした。博士も悪漢に撃たれて虫の息。実は書類の半分は娘のアキコ(安西郷子)が持つてゐるので、娘を守つて欲しいと言ひ残し息絶えました。
 大男と少年は、博士から託された放射能除去機を持つて、アキコを探すべく汽車に便乗して東京へ向ひます。するとその列車には偶然ギャング団も乗合せてをり、その一人殿村(富田仲次郎)が気付いて、大男と少年が乗る車輛の連結器を外し(!)、脱線させそのまゝ車輛は大男たちもろとも海中へドボン!

 場面は東京魚河岸へ。水揚げされたマグロの放射能を調べてゐますが(原子マグロが問題になつてゐた頃ですね。さう云へば本作の公開は「ゴジラ」の一カ月後であります)、マグロに混り大男と少年が出て来たので周囲は騒然とします。しかもガイガーカウンターは極めて危険な数値を示します。騒動に乗じて二人は逃げます。バア「エンゼル」の楽屋に逃げ込み、居合せた少女歌手のトモ子(松島トモ子)と、池島の恋人ルリ子(美雪節子)が匿つてくれますが......

 力道山を主演に迎へ、暗黒街映画とファンタジイを混淆させた少年向き映画が製作されました。大蔵貢体制以前の作品なので、ゲテモノの意識はなく「ノンちゃん雲に乗る」みたいなファンタジイの路線ではないでせうか。
 力道山は髭だらけでジャングルの大男。人間の言葉は解せず、小畑やすしが通訳みたいになつてゐますが、彼もジャングルにゐるのに、何故言葉が分るのかは謎です。そして人間語が分らないのに、ワルの会話を聞いてアジトが「エンゼル」である事を理解したのは不思議です。途中から髭が無くなつたのは、やはりスタア力道山の顔をしつかり観客に見せたかつたのでせうか。髭の力道山、可愛かつたのに。

 共演者は、まづ小畑やすし、松島トモ子の両子役。後の「サザエさん」でカツオ、ワカメのコムビですね。ヒロインには安西郷子、後の三橋達也夫人。悪魔の発明の設計書類の半分を所持してゐる事で、ワルに狙はれます。それから美雪節子、彼女は得体の知れぬ大男の為に自分の部屋を提供する親切な娘さん。普通有り得ないでせうが。彼女の恋人小笠原弘(小笠原竜三郎)は、美雪との生活しか頭になく、カネで博士父娘を売る奴。此奴がゐなくてもワル共は暗躍しただらうが、兎に角責任は大であります。

 ワル側のカシラは「エンゼル」のマスタアでマンフリーと云ふ人。「誰も素顔を見た事がない男」として謎を引張りますが、正体がバレる場面は大間抜けでした。しかし力道山とは互角の対戦を見せ、中中の見せ場を作つたのであります。その配下に安部徹、書類を抱へテレビ塔の天辺まで逃げますが、力道山に塔を揺らされて(!)落下すると云ふ最期を遂げます(その瞬間、小畑の夢は終り現実に戻る)。富田仲次郎は眼帯で登場、卑しさでは天下一品。あと少しで力道山の息の根を止められたのに、詰めが甘かつた。

 その他柳家金語楼や警察の丹波哲郎(力道山が留置場を揺らすのを「地震だ」と驚く)、丹下キヨ子、鳥羽陽之助らも登場しますが、今一人内海突破が目立ちました。タクシー運転手で後半は力道山らに協力、オーヷーアクションで笑はせます。

 ラストではサアヸスの為か、力道山一門が臨時にリングを組んで烈しい稽古風景を披露します。それに興奮した小畑が、歩けない筈なのに思はず立ち、リング上で歩く奇跡を見せて終るのです。良かつたねえ。
 子供の為の企画とは存じますが、付き合つて見るお父さんへのサアヸスも怠らない、勧善懲悪ファンタジイでした。