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2025/2/12
「キネマ旬報」2月号は発売後SOLD OUTしました。特集は「2025年、映画の旅」(70P超!公開待機作ラインナップ特集)。表紙・巻頭インタビューは、派手に痛快なコンゲームを繰り広げる「劇場版 トリリオンゲーム」主演の目黒蓮。
2025/02/05
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2024/07/11
1919年(大正8年)7月11日「キネマ旬報」は映画好きの学生たちによって誕生しました。雑誌の100年の歴史を俯瞰した記念ムック「キネマ旬報の100年」発売中です!
2024/02/05
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2024/02/01
2023年 第97回キネマ旬報ベスト・テン第1位の作品と個人賞を「キネマ旬報WEB」にて発表いたしました。
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美しき諍い女
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この邦題と、エマニュエル・ベアールのヌードが話題になったこともあり、官能的な恋愛映画と誤解する人も多いだろう。かくいう私もそう思っていた。しかし、本作は一種の芸術論を映像で描いたリヴェット監督渾身の一作だ。 237分という長尺の中のほとんどが、画家がノートやキャンバスに絵を描く様子を長回しでとらえたものだ。だから観る者によっては非常に退屈するかもしれない。私も初見時にはそう思った。しかし、今回改めて観なおしてみると、その一筆一筆を固唾をのんで見入ってしまった。実在する画家ベルナール・デュフールがノートやキャンバスに描くタッチを編集せずそのまま使用している。画家はキャンパスにいきなり描き始めることはなく、ノートにペンでラフにスケッチしていく。素人目には落書きにしか見えないが(笑)、画家はそれによってイメージを掴んでいくのだ。ペンが紙をひっかくガリガリという音が、緊張感を高めていく。 ミシェル・ピッコリ演じる老画家は、10年前にジェーン・バーキン演じる妻リズをモデルとした「美しき諍い女」という絵画を描こうとしていた。しかしそれを断念してから新作を描くことはなかった。しかし、訪ねて来た新進画家の恋人マリアンヌ(エマニュエル・ベアール)をモデルに、再び「美しき諍い女」を描こうと決意する。画家は何故、10年前に最高傑作になりえたはずの「美しき諍い女」の制作を中断したのか。妻によると画家本人が怖気づいたから・・・。それはどういう意味だろう?この答が本作最大のクライマックスだ。 画家とヌードモデルの間に性的な関係が成立するのか?画家はモデルの裸体をそれこそなめるように視る。しかし老画家曰く、今まで寝たいと思ったモデルは妻だけだった、と。妻はそれ以降彼の専属モデルになるが、10年前の一見依頼モデルにはなっていない。年を重ねた妻に画家の想像力が掻き立てられないからなのか?悲しいことにそれも少しはあるだろうが、どうやらそうではない。画家は美しい裸体のモデルに性的な魅力を感じていない。画家が言うには、胸も尻もいらない、必要なのは骨格、さらにはその中にあるモデルの本性なのだ。ヌードモデルは何とも過酷だ。まず、人前で裸になるという精神的苦痛があり、次に無理なポーズをずっととり続けなければならないという肉体的苦痛がある。傑作を描いてくれなければ割にあわない(笑)。 マリアンヌが画家のモデルになったのは、恋人の推薦によるものだ。新進画家は老画家に心酔しており、「美しき諍い女」を完成してもらいたいと思っている。だからおそらくその場のノリで恋人を本人の許可なくモデルに推薦したのだ。しかしそのあとで、恋人と画家の間に何かありはしないかと勘繰り、勝手に苦しむのである。マリアンヌがモデルになってから、妻もまた苦しんでいる。それは新進画家の苦しみとは異なるものだ。何故なら妻こそが、「美しき諍い女」の本当の恐ろしさを知っているからだ。当初あまりやる気のなかったマリアンヌは、画家のパワハラともとれる要求にしぶしぶ従っているだけだった。上下関係は完全に画家が上だ。しかし、制作が思うようにならない画家が中断を告げると、彼女からポーズをとるようになる。上下関係が逆転したのだ。これにより画家とモデルは完全な共同体となり、絵画完成に突き進むことになる。 マリアンヌとリズは、正反対なキャラクターだ。全編ほぼ裸のマリアンヌは勝ち気だ。なめらかな肢体以上に強い眼差しが美しい。一方リズは、マリアンヌよりはるかに年上だが、まるで少女のよう。ジェーン・バーキンの浮世離れしたキャラクターが活かされている。リズはマリアンヌに忠告するが、マリアンヌはリズが単に嫉妬しているだけと思いそれを聞かない。リズは何を心配しているのか?前述のとおり、その絵はモデルの中にある本性を描くものだ。彼女の中の冷酷さを・・・。 芸術家は時に残酷だ。あまりにも残酷だ。10年前にリズをモデルに書きかけだったキャンバスに、新たにマリアンヌの裸体を描いていく。リズの顔はマリアンヌのお尻に塗りつぶされていくのだ。傷ついたリズに画家は「先へ進むためだ」と言うが、先へ進むのは画家だけだ、リズは置いてけぼりだ。10年前、リズは自分の本性が絵画に表されることを覚悟した。それは妻である以上に画家の才能を信じていたからだ。しかし、画家は怖気づき制作を中止してしまった。もし妻の本性を知ってしまったら一緒に暮らせなくなると思ったのかもしれない。マリアンヌの覚悟は、リズの覚悟に到底及ばない。完成した絵を見たマリアンヌは画家や恋人からも逃げ出そうとする。 この問題の絵画を、リヴェット監督は観客に見せない。その演出がなんとも憎い。チラリと足首が見えるだけであとは観客の想像力に委ねたのだ。画家はこの絵を、マリアンヌ以外、誰にも見せずに(こっそりリズは視てしまったが)壁に塗り込んでしまう。そうして一夜漬けのやっつけ仕事で偽の「美しき諍い女」を完成させる。それを見た新進画家は失望し、画商は「なんでも新作なら売れる」と喜び、リズとマリアンヌは安堵する。これ以降画家は新作を描くだろうか?私には彼にその情熱は残っていないように思う。何事もなかったように、城のような広大な屋敷で妻と平穏に暮らしていくのだろう。
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