【しなやかな感性で女性心理を浮き彫りにする若き才媛】福岡県北九州市の生まれ。本名・棚田入月。地元の高校で演劇を学んだのち、上京してイメージフォーラム附属映像研究所に入学。2000年に自ら監督・脚本・主演をつとめた自主映画「モル」を製作した。この作品でPFFアワード01のグランプリを獲得。期待の新人女性監督として注目を集め、「モル」はデジタルビデオ制作の自主映画ながら01年に劇場公開、そのまま監督デビューとなった。某作メイキング担当の縁で撮った監督第2作は、伝説のフォークシンガー、高田渡の姿を追う記録映画「タカダワタル的」(04)。フォーク全盛期を知らない世代のタナダが、知らないがゆえの軽やかさで、高田のマイペースな音楽活動を綴った。ロングランヒットとなった同作と同じ年には、若手監督6人が集った「ラブコレクション」シリーズの一作「月とチェリー」も公開。その後、18人のクリエイターたちが参加した短編オムニバス「ハヴァ・ナイスデー」(06)の一編「世田谷リンダちゃん」や、ミュージックビデオ等の演出を経て、07年に松田洋子の同名コミックを映画化した「赤い文化住宅の初子」を監督する。同年には写真家・蜷川実花の初監督作「さくらん」の脚本も手がけ、折しも高まった女性監督台頭の機運に乗ってタナダ自身も脚光を浴びた。続く自身のオリジナル脚本による「百万円と苦虫女」(08)では日本映画監督協会新人賞を受賞。同作で蒼井優が演じたヒロイン・鈴子を再び登場させたWOWOWドラマ『蒼井優×4つの嘘/カムフラージュ』の中の一編『都民・鈴子/百万円と苦虫女・序章』(08)も手がける。この年にはもう1本、さそうあきらの人気コミックが原作の青春映画「俺たちに明日はないッス」も監督。順調にそのキャリアを積み重ねている。【等身大に世界と対峙する若者たち】映画学校を経て自主映画がPFFで評価され、そのまま劇場デビューを果たすという2000年代の多くの自主映画出身者がたどった道を通って才能をアピールした新世代作家。女性監督が多く台頭し注目を集めた時期とも重なって、映画、テレビドラマ、ミュージックビデオなど、さまざまな映像ジャンルを手がけて頭角を現した。タナダ作品では原作もの・オリジナル作品を問わず常に、思春期から青年期にかけての人物が、生理的な感性を通した社会との齟齬を抱え生きている。生理日になると自殺者と目が合い高熱を出す「モル」、極貧の生活で同級生と距離感を持つ「赤い文化住宅の初子」、人間関係が構築される時期に街を逃げ出す「百万円と苦虫女」。これらの女性が手探りで世界と向き合おうとする過程をしなやかに描き出す。デビュー作から連続して女性を主人公に据えたため、女子が社会と対峙する映画作家ともみられたが、「俺たちに明日はないッス」では「月とチェリー」の発展形として童貞喪失により世界突破を企む少年たちを描き、その世界観を拡大させた。