平成12年、神奈川県愛川町と厚木市を流れる中津川に、首都圏最大級の水甕“宮ケ瀬ダム”が完成。上流にダムが出来たことにより、中津川では生き物たちに様々な影響が現れ始める。愛川町に住む吉江啓蔵は、絶滅危惧種の植物“カワラノギク”の保護に取り組んでいる。カワラノギクは世界でも日本の関東地方の限られた河川にしか見られない植物で、かつて中津川では至る所に群生していたが、河川整備やダムの影響を受けて、ほぼ絶滅状態。吉江はこの貴重な植物を救うため、たった1人で保護活動を始めた。一方、かつて愛川中学校の教師だった齋藤知一は、昭和30年代から中津川で水生昆虫調査を行ってきた。水生昆虫とは、トンボやカゲロウなどの幼虫で、その種類や数・分布などを調べることで川の環境状態がわかるのだ。宮ケ瀬ダムの完成を機に、齋藤は中津川の水生昆虫調査を再開する。絶滅に瀕しながらも吉江の保護活動によって命を吹き返していくカワラノギクの繁殖過程、齋藤の調査から見えてくる水生昆虫の知られざる生態、そしてダムの影響を受けるようになった川の環境変化。それらが、本作を通じて明らかになる。身近な存在ゆえに、普段見過ごしがちな川の自然。そこでは小さな生き物たちが懸命に生きており、吉江と齋藤の取り組みからは、人と自然の大切な関係が見えてくる。そして中津川における人と自然の共生の在り方が、実は日本全国の河川に共通の課題であることが浮き彫りになる。