歓楽街の顔役、キャバレー「ジュリー」のマスター山川隆の兄義夫は、貧民くつの一角に、貧しい人とすむ弁護士で、いつもめぐまれない人々の味方であった。この貧民街を取払って、ここにあらたに歓楽街をつくり出そうとたくらむ村上組の親分は、また隆とも張り合う仲だった。「ジュリー」に最近来た歌姫の由利は美しい女で、隆は由利に思いをよせる。ある日、貧民街をおそった村上組の連中は暴力をもって貧民街をとりこわそうとたくらみ、急を聞いた隆は兄の身を心配してかけつけ、村上組を追いはらった。しかし貧民の中からは村上組の暴力による犠牲者が出た。義夫はかんぜんと法廷で争うことにした。隆と義夫は昔、震災の孤児として山川徳次郎にひろわれ兄弟として育てられた、その父も健在で、他人同志の集りである親子三人は愛情の点では実の親子にも劣らず、互いに深くいたわり合っていた。だが、隆は終戦後の社会状勢に、暴力に対するには暴力で、不正に対しては不正をもって進んだため、今や歓楽街の顔役となっているが兄義夫はこれと全く反対であった。村上組におそわれたとき隆と一緒に貧民街へきた由利はそのときから、義夫の真実の生きかたにひきつけられた。法廷では、村上組の買収策も功を奏さず、正義の士義夫の弁護によって勝利となった。このころ、由利は、足しげく義夫のところへやって来て、自らを真面目な生きかたに変えようと努力した、それは義夫に対する恋であったのだ。法廷にやぶれた村上は、ある夜義夫をおそってそのため義夫は重傷を負い更に脅迫された。彼を身をもって看護するのは由利だった。隆も兄の重傷を聞いてかけつけ、そこで自分の愛する由利が兄を愛していることを知った。隆は由利をあきらめ、兄のために村上を撃った。かくて隆は暴力に対する暴力をもって行い通し、刑場の露と消えたのだ。