母と弟の三人で母子寮に暮していた鮮太は、昼間は郵便局に勤め、夜は中学に通っていた。ある日学校へ行った鮮太は、自分の机の中に「夜の僕の机の友人へ」と書かれた昼の生徒、水野良平からの手紙を見付けた。忘れて帰った筆箱を知っていたら返して下さいという手紙は、昼間働いて夜勉強している貧しい生徒たちには刺激的だった。鮮太は直ぐに返事を机の中に書いておいた。「僕がしゃくにさわったのは昼の君たちが夜の生徒は物を持って行くと始めからきめている様な手紙の書きぶりに対してです」。翌朝良平がこの手紙を読んでいると、それを見付けたクラスメートが曲解して、はじめは私信程度のものだったのに、夜と昼との生徒の間に嫌悪な感清を引き起こしてしまった。放課後、街頭募金に町に立った昼の生徒が夜の生徒の登校を待ち受けたりするのをみると良平はすっかり考え込んでしまい、ついに父に訴えた。問題の筆箱が間もなく先生から戻って来ると、彼の後悔は深かった。事件の数日後、学校へ行った鮮太が机をあけると、お詫びの手紙と一緒にリンゴが入っていた。そのお礼には良平の家に珍らしい郵便切手が送られたりして、お互に顔も知らないまま、中学生らしい友情が芽生えて行った。ある午後ひそかに鮮太の仕事ぶりを見に行った良平は、帰途、電車の中で女の子がなくしたマリを車内の人が協力して捜してやったのを目撃して人の世の相互扶助の尊さを思い知った。やがて学期試験が始まった。あいにく停電した教室の中、ローソクの下で鮮太は自分の試験も良平たちもうまく行くようにと思いながら一心にペンを走らせていた。