外に雪が舞うある夜。質屋の娘お艶は、恋しい手代の新助と手と手をとり合って駈け落ちした。この二人を引きとったのは、店に出入りする遊び人の権次夫婦だった。はじめは、優しい言葉で二人を迎え入れた夫婦だったが、権次も所詮は悪党だ。お艶の親元へ現われ何かと小金を巻きあげ、あげくに、お艶を芸者として売りとばし、新助を殺そうとしていたのだ。が、そんなこととはつゆ知らぬお艶と新助は、互いに求め合うまま狂おしい愛欲の日々をおくっていた。しかし、そんなお艶のなまめかしい姿を、権次の下に出入りする刺青師清吉は焼けつくような眼差しでみつめるのだった。そして、とある雨の晩。権次は、とうとう計画を実行に移し、殺し屋三太を新助の下に差しむけた。だが、必死で抵抗した新助は、逆に三太を短刀で殺してしまった。ちょうどそのころ、土蔵に閉じこめられていたお艶は、刺青師清吉のために、麻薬をかがされ、気を失い、その白い肌一面に巨大な女郎蜘蛛の刺青をほどこされた。恍惚として見守る清吉の姿は、刺青の美しさに魂を奪われたぬけがらのようであった。やがて眠りから醒めたお艶は、この刺青によって眠っていた妖しい血を呼び起こされたように、その瞳は熱をおびて濡れていた。それからというものお艶は辰巳芸者染吉と名を改め、次々と男を酔わせていった。が、昔のやさしいお艶の姿を忘れきれない新助は嫉妬に身をやき、染吉と関係を持った男を次々と殺し、ついにある夜、短刀を持って染吉に迫った。だが新助には染吉を殺すことはできず、逆に染吉が新助を刺した。一部始終をかいま見ていた清吉は、遂にたえきれず自らが彫った女郎蜘蛛を短刀で刺し、自らも命を絶った。死んでいく染吉の顔には、すでに男をまどわした妖しい影はなく、優しいお艶の安らぎの顔があった。