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去年、日活100周年を記念した“ロマンポルノ”の特集上映が、全国で好評を博しました。「映画としての作品力が高い」「女性も楽しめる」といった理由で、現在、エロティックな要素のある映画、“エロス映画”が見直され始めています。
特集①のコラムでは、女性の目線で“エロス映画”を論じてもらおうと、映画批評家の北川れい子さんに筆を取っていただきました。特集②では、編集部が独自に選んだ“エロス映画”16本を、みなさまへご紹介します。
「男と女はあれしかないんよ」と大きなお腹が目立つ半玉(半人前の芸者)役の芹明香がシレッと言う。昭和初期の芸者屋を舞台にした「四畳半襖の裏張り しのび肌」(74年、監督・神代辰巳)のラストの台詞である。
えっ、男と女ってあれしかないの?むろん、異論、反論は多々あるかも。けれども、こと〈ロマンポルノ〉に関しては、“男と女のあれ”を描くこと、あれを見せることこそが絶対的条件で、その中から日本映画史を彩る傑作や秀作が何作も生まれたのだった。前述の神代作品もその1作。
ところで1990年代以降に生まれた人の中には、〈ロマンポルノ〉という言葉は聞いたことがあっても、その実体をご存じない人もいると聞く。で、ザッとその大枠を説明させて頂く。映画会社日活が、“にっかつロマンポルノ”という名称で1971年11月から1988年6月までの17年間続けた成人向けのプログラム・ピクチュアで、当初は2週間ごとに新作2本立てで公開されていた。途中から日活製作以外の成人映画も買取り作品として〈ロマンポルノ〉という枠に入り、3本立てで公開されるようになったが、とにかく日活が製作を中止するまでの17年間、買取り作品を含め、約1100作品が、〈にっかつロマンポルノ〉として公開されたのだった。そうそう、末期には、より刺激的な性描写をウリにした“ロマンX”なる路線も登場したが、明らかに断末魔的な作品だった。
それにしても、スタート時、社会的にも差別的に扱われ、観客もほとんど男性で占められていた〈ロマンポルノ〉が、近年の特集上映時、多くの女性客が詰めかけているのを見ると、頼もしくも嬉しくなる。1作品70分前後の中に、裸の女優と男優との、いわゆる〝からみ〟というか、性描写が、物語の流れに沿って必ず6回か7回、出てくるのだが、〈ロマンポルノ〉では、このロマン、つまり物語が、ポルノという性描写と一体化しているのである。物語とセックスが深く結びついた〈ロマンポルノ〉が、現代の女性たちの関心をも集めるのは当然だと思う。
しかも物語の多彩さ。時代劇からアクション、女子大生ものからOLもの、コメディもあれば純愛にSMもあり、もちろん、トンでる女子高生ものも。当然、中にはレイプ他、ヒロインたちが凌辱的に扱われる物語もあるが、例えそういう内容でも決してそれだけでは終わらず、必ずヒロインたちは再び立ち上がるのだ。
女優の存在が先行する〈ロマンポルノ〉ならではの約束ごとで、早い話、〈ロマンポルノ〉とは、女性上位(女優上位)のプログラム・ピクチュアでもあったのだ。試しに何作か観て下さい。但し、クセになっても当方は関知せず……。
とはいえ、ロマンポルノは作品数が多い。手当たり次第に観るのもそれはそれで面白いが、正直、おざなりでどうしようもない作品も決して少なくない。
ま、ザックリ言えば、70年代に作られた作品に傑作、秀作、佳作が集中している。何人ものスター女優が誕生したのも70年代で、と同時に新人監督が次々に登場、“裸とセックス”というロマンポルノの約束ごとを踏まえた上で、時代の風俗や価値観を取り込み、つまり、もっとも作品的活気があったのは70年代なのである。当然、脚本家の功績も忘れてはなるまい。要は70年代の作品をメインに、女優で選ぶもよし、監督や脚本で選ぶもよし。
参考までにわが独断で10作品挙げさせて頂けば……。
おっと、神代辰巳と田中登の作品が半数以上、しかも「桃尻娘」以外はかなりへヴィな作品だが、以上10作品のほとんどは、贔屓目抜き、ロマンポルノという枠を超えた日本映画史に残る秀作で、百聞は一見に如かず、ぜひ観てほしい。
因みにスター女優の何人かを紹介すれば、知的でスレンダーな田中真理。守ってあげたくなる山科ゆり。下町っ娘〈こ〉タイプの片桐夕子。時代劇が似合う小川節子。アッケラカンとした、ひろみ麻耶に梢ひとみ。タフな風間舞子にちょっとアブない芹明香。人妻役なら宮井えりな。そうそう、いわゆる“オナペット”の原悦子や美保純の人気も凄かった。
オナペットといえば、今、世間では、アダルトなエロスを振りまいている壇蜜が注目の的だが、彼女主演で昨年公開された「私の奴隷になりなさい」の倒錯的な性の世界は、ロマンポルノの人気路線の一つであった。見よ、小沼勝監督の「昼下りの情事 古都曼陀羅」(73/脚本・中島丈博)や「花と蛇」(74/脚本・田中陽造)を!山科ゆりや谷ナオミたちが、壇蜜以上に献身的、かつ過激なSM演技を披露、映像美もハンパではない。
現在公開中の「戦争と一人の女」(監督・井上淳一、脚本・荒井晴彦)も個性派・江口のりこがヘアー丸出し、したたかに時代と男を挑発し、乗り越え、生き延びる。6月公開の石井隆の原作・脚本・監督「フィギュアなあなた」も、グラビア・アイドル佐々木心音がフルヌードに挑む、異形の愛。
ロマンポルノの流れをくむエロスいっぱいの映画たちに、乾杯を!