パスワードを忘れた方はこちら
※各情報を公開しているユーザーの方のみ検索可能です。
メールアドレスをご入力ください。 入力されたメールアドレス宛にパスワードの再設定のお知らせメールが送信されます。
パスワードを再設定いただくためのお知らせメールをお送りしております。
メールをご覧いただきましてパスワードの再設定を行ってください。 本設定は72時間以内にお願い致します。
戻る
公開年:
現在の文字数:0文字
氏名(任意)
タイトルが何を指すのか、よくわからないが、大野大輔監督、主演ぶりも堂に入っている。対する根矢涼香の、相手を睨み付けるような眼差しも、コワくて良い。ベッド一つで一杯のワンルームで延々と繰り返される言葉のバトルも、こういうカップルならいかにもありそうな物言いでリアル。時々、挟まれる二人が出会った頃の様子が、ドツボに填まったような現在を浮き彫りにして効果的。ラストの、自販機が並ぶ道に出てきた根矢の動きを引きの画で捉えたショットにニヤリとしてしまった。
原作は未読だが、脚本が奥寺佐渡子と知って期待して見たのだが……いや、マイッタね。最初に、過去に戻れる椅子に座りたいという波瑠の、演技にしても過剰に高飛車な態度に引いたのが始まりで、あとに続く、心温まるエピソードも、なかば白けた感じで見ることになった。極めつけは、最後の、数(有村架純)が亡母に逢いに過去に戻る話だ。彼女は、娘が煎れたコーヒーを飲んで過去に戻ったというのだが、生まれていない娘を未来から呼び出すためのコーヒーは、誰が煎れたのか!?
父親の仕事を知ろうと、後をつけてみたら、なんと、その名もイヤなゴキブリという悪役レスラーだった……と知った息子の落胆と、ヒールという役柄を理解してもらえない父親の悲しみが自然に伝わる。だから、なんとか息子の信頼を取り戻そうとした父親が、Z-1クライマックスにチャンスが巡ってきたとき、仮面を捨てて戦うものの敗れるという展開が効いており、それがあるから、トップレスラーとの対決では、敢えてゴキブリとして戦うというのも生きる。それぞれの試合シーンがいい。
なんといっても、カズとフミという同性カップルの弁護士二人組が面白い。彼らの柔らかさというか、自然体で外に開く姿勢が、カズマという少年の寛ぎにも現れている。彼らが関わる裁判が、いずれも表現の自由やマイノリティーの権利に関わる事案であるのも、この二人ならではと思う。そこでは現在の裁判官の質も問題にされるが、無戸籍者についての裁判は、些かわかりにくい。どうせなら、『日本の無戸籍者』の著者である井戸まさえさんにもっと語ってほしかった。選挙運動もいいが。
十分に楽しめたものの、痴話喧嘩で長尺は無理。男女のなれそめとか、回想を入れて飽きさせない工夫は評価できる。そこでの過去の女は結構かわいいのだが、現在の彼女が今一つ。というか冷静に考えると悪いのは女の方ではないか。パチンコに依存している以上に男に依存しているのである。一方、男はあんな最悪のAV現場でも投げずに成立させようとして立派な人だ。結局一晩しゃべり続けるというコンセプトはいいのだが、細部が弱い。部屋の狭さをもっと活かしてほしかったところ。
喫茶店の、ある席に座ると過去に戻れるという設定。挿話をつないでいくオムニバスっぽい作りだが、やがて喫茶店の娘さんの側の事情が前面に現れ、話が深まる。細かい規則のせいで、ファンタジーというよりゲーム的な感触が強い。最初、味気ない印象だったが喜劇的な趣向を組み込んであり、設定自体を笑う雰囲気が強調される。問題の規則にがんじがらめになり、主人公は動きが取れなくなるものの、そこを起死回生のプランが救う。悪魔の契約じゃないので安心して見られるのが特徴。
お父さんが悪役プロレスラーだと知った少年、祥太の物語。基本たわいないし想像した通りの終わり方だが、それでいいのだ。そこにたどり着くまで、盛り込まれたアイデアの豊富さに驚かされる。特にいいキャラが、将来プロレスおたくとなるのは間違いない小学生の女の子(祥太の同級生)マナちゃんと、れっきとしたプロレスおたく編集者ミチコさん。二人が祥太を鼓舞したり叱ったりすることで話が進む構成である。祥太がクラスの机に上って、お父さんのように吠える場面が素晴らしい。
しょっぱな日本人の悪口が字幕で語られ、保守な私はかちんときたのだが、偏狭な制度の犠牲者に手を差しのべる弁護士カップルの話だから文句は言えない。このカップルが同性愛者、というのがミソ。裁判の事例同様、彼らのパーソナリティと生活も面白い。二人の同棲生活に一人の孤児が転がり込んできて、という展開はドキュメンタリーというより劇映画になりそう。現在の婚姻制度の偏狭性を冷静に批判する弁護士に食ってかかるバカが現れ、私も字幕の正当性を認めざるをえなかった。
映像的な魅力は薄いものの室内に着席して会話が始まると、途端に輝き始める。倦怠期カップルの会話の攻防が実に魅力的で、インディース映画にありがちな歯の浮くような台詞や、男根主義が透けて見えることも無い。映画・演劇周辺に居る者にとっては抱腹絶倒かつ洒落にならない生々しさを持つ押し問答が躍動する。生活感や経済観念を具体的に描くことで奥行きが広がり、双方の内面を覗かせるあたりも抜かりない。諦念を持ちつつそれでも生きていかねばならない疲弊感が響いてくる。
あざとそうな挿話が並び、〈4回泣けます〉なる直球の惹句にも鼻白み、タイムスリップのルールも細かすぎて、小説ならまだしも映画では不自由にしかならないと思っていると、巧みな語り口に引き込まれる。奥寺佐渡子の脚本だけに「時かけ」同様、寓話と現実との配分も申し分なく、泣きを過剰に見せない塚原演出とも調和。吉田羊が縦横無尽に動き、主舞台となる喫茶店の狭い空間を制するのも良い。とはいえ、この脚本でアニメ化した方が相応しかったのではと思ってしまったのだが。
悪役レスラーと息子の関係を軸に描くにあたってプロレスのプロレスたる面をどう処理するかと思ったが、リングとリング裏のドラマを一体化させる一方で、プロレスという職場と家庭と学校を上手く描き分けている。親も教師も子供の世界に無関心すぎるのは気になるが、クライマックスの戦いに個々の視点が結びつき、一体感を生みだす。寺田のあまりにも子役然とした演技を放置しているのは疑問だが、プロレスオタの編集者・仲里依紗は出色。脇に回ると奔放な演技を楽しませてくれる。
息の合った弁護士の〈夫夫善哉〉だ。大阪人らしい能弁な2人の会話が心地いい。戸籍、思想信条、わいせつなど彼らが手がけるのは根源的な自由を揺るがす案件ばかりだ。同性婚を行った自分たちの境遇から、扱う事件にも感情的になりそうだが、柔和な姿勢を崩さずに当たり前の権利を手にしようと軽やかに動き続ける姿が胸を打つ。少年犯罪の被害者の母親から電話口で国籍を詰問された時の一瞬見せる憤りとやるせない表情、だが直後にそれを口にしてしまう相手を慮る姿も忘れ難い。