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見る前にはとくに期待してなかったし、冒頭からの数分間の音楽の入り方が煩くて、この先、どうなるのかと思ったのだが……。気がつけば、小松菜奈の真っ直ぐに睨み付けるような視線と、それに相応しいストレートな動きに滲む恋心に素直に感応してしまったのだ。作劇上、受けに回る大泉洋の演技も悪くなく、また同じ陸上部で、小松を気遣う、幼馴染みの清野菜名や、小松をライバル視する他校の山本舞香なども、それぞれの場面で生きているが、なにより小松菜奈のお陰で★一つプラス。
二人の男の後ろ姿の間に「友罪」の文字が出た直後、道路を緩やかに移動する画面に、胸騒ぎめいた感覚を覚えたが、以後の展開にも、絶えず予測し得ないことが起こりそうな気配が感じられて、眼が離せない。これに較べれば「孤狼の血」など緩いものだ。それは、単に二人のうちの一人が「あの少年A」だから、ということに因るのではない。佐藤浩市扮する老運転手にしても、DV男に付きまとわれる夏帆演ずる女にしても、画面に現れるとき、どこか禍々しい空気を身に帯びてくるからだ。
結局、と言ってしまうと、一言ですんじゃうんだけどね、榮倉奈々が、次々と趣向を凝らして死んだふりをするところが見所と。ほかに、何があったっけ? まあ、後輩の結婚生活の維持に、それなりの配慮をしているように見えた男の妻が、容易に解消できない鬱屈を抱えていたとか、榮倉奈々の父(螢雪次朗)が妻を亡くして落ち込んでいるときに、娘の、後につながるような振舞いに助けられたとか、それなりに話は盛り込んでいるけれど、何故か横に流れていって、深みに達しないのだ。
店主の渋川清彦、バイトの人妻・伊藤沙莉、同じく森岡龍の三人に加え、クリーニング屋の女主人・余貴美子に、自称助監督で旅館手伝いの滝藤賢一が時折集って、何かについて話をする科白のやりとりには、かなり工夫が凝らされていて、クスリとさせられる。と同時に、その効果を狙っての間の取り方に、演出が感じられるのだが、それが、場所やシチュエーションを替えて繰り返されるうちに、作る側の、どう、この感じ悪くないでしょと見せつけられるようで鬱陶しくなる。
キラキラ系の未熟な恋愛じゃなく、常識が通じる物語でほっとした。特にいいのが高校陸上部の青春あれこれ。友人清野菜名、生意気な後輩(他校だが)山本舞香とリタイア中の主人公小松菜奈のアンサンブルが良好だ。問題は大泉中年の細部がハンパなことで、私には彼の小説家志望の内実(中断か挫折か)が見えなかった。彼女と出会ってリフレッシュし再開したのだろうか。原作には書いてあるのだろうが映画で分からせてほしい。きっかけの手品は後一回出てきてくれても良かったのでは。
様々な罪が出てくるが罪自体は描かれない。罪の後それぞれの物語が絡まり合って群像劇を構成する。自分勝手に罪を償おうとする佐藤浩市に比べれば「少年A」の理性には感服した。相手を殴ると事件になり身許がバレるのでやらないだけなのだが、それにしても自分を罰してがっつんがっつんやる場面が凄い。ただその後、傷がないのはヘンだ。クライマックスは主人公二人の偽の視線交錯。この演出が瀬々なのだ。富田靖子は何故自身の裸をAに描かせたのか、とか微妙な謎が残るのも良い。
無知な私は原作を知らなかったが、その方が楽しめる。初めは、正直これで二時間もつのか不安だったものの、挿入される色々な夫婦のエピソードが効果的、スムーズに進む。特に主人公の同僚夫婦のフラストレーション描写が(ありそうで)怖い。どっちも良い人なのにね。主人公がバツイチで互いの結婚の意思を数年ごとに契約更改みたいに確認する、というバカ正直さも可笑しい。もっともそれがストレスの原因だったりするわけだが。漱石と鷗外の文芸総覧ネタも深い。私もたまに読みます。
大通りの階段で有名な伊香保温泉の御当地ムーヴィー、地味な素材にしては滝藤に余と配役隅々までゴージャスで驚く。セックスしかしてない諏訪太朗も妙にいい。弱いキャストは従業員伊藤、と誰でも思うだろう。ところが彼女の珍宝館での力演がキー、というか「そういう映画なのね」とダメ押しする。つまりこの映画は脱力的なのではなく、真剣にユルいのだ。精神的に危ない状態の理髪店主片岡礼子との交情のせいで主人公が痛い目に遭う挿話も、悲劇と喜劇、一緒くたな感覚が絶妙なり。
原作未読のまま例の山口達也問題の最中に観たので、女子高生とおじさんとの恋愛劇に入り込めるかと思ったが、意外な拾い物と思えるほど魅了。学校を世界の縮図として濃密に描いた「帝一の國」の監督らしく、ファミレスという限定空間を巧みに用いて陸上競技に挫折したヒロインが大泉に抱く心情をすくい取り、一線をはみ出さずにどう描けるかに工夫があり、感心。気が強い後輩役の山本舞香が際立つ存在なので、終盤の処理は不満。小松と彼女の対立を活かしたラストが見たかった。
かつてはメジャーで撮ると統御しきれない感があったが、「64」あたりから規模に関係なく瀬々映画として均一化されるようになり、本作に至っては自主映画「ヘヴンズストーリー」の続篇的であり、「最低。」の延長でもある。罪を背負う人々が少しずつ重なり合いながら波紋を広げていく劇の構造は既に円熟の域に達し、罪を償うという行為への問いかけを実直に描く。瑛太の演技が苦手だった身としては、感情を欠損させる不自由さを課すことでベストアクトが引き出された感あり。
こんなものまでと呆れないのは、最低限のルールさえ守れば好きに話を作れる企画ゆえ。結局、絵解き以上のものはなく、各日ごとのオムニバス形式にしてオチにその日の死んだふりを見せるなり、作劇に工夫が欲しかった。最初は日本人ではないのかと思ったほど妻の言葉がたどたどしく、この行為の裏にあるものを創作すれば広がりが出ただろうが、思わせぶりなだけだった。昨年入籍した身としては、妻が毎日バカバカしいことのために無駄遣いしていたら確実に喧嘩していたと思う。
インディペンデント日本映画好きなら、おなじみの顔ぶれが揃って快演を見せてくれるだけに退屈しないはず。渋川が全て受け止め、滝藤や女優たちがテンションを上げて迫っても映画が崩れない。ただ、せっかく個性派を集めたにしては微温的すぎ、小劇場的な小ネタに終始した感がもったいない。監督の趣味としか思えない秘宝館で珍宝を使った手コキを伊藤沙莉にさせているシーンが異様に丹念に撮っていることもあって扇情的で良いが、こういうワケの分からない場面がもっと欲しくなる。